原発事故初動対応に関する矛盾 | 桜内文城オフィシャルブログ「みんなきさいや」Powered by Ameba

原発事故初動対応に関する矛盾

ここでは3月12日未明の政府の初動対応に焦点を当てる。ベントの指示の有無、そのタイミングについてだ。実は、後日の菅総理の国会答弁と当日の枝野官房長官の記者会見の内容とは大きく食い違っている。

菅総理は4月18日の参議院予算委員会で「3月12日午前1時30分頃にベントの指示をした」旨を答弁した。
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○内閣総理大臣(菅直人君)‥中略‥ そういう中で、ベントが必要だということが、基本的に、そういう皆さん、専門家の皆さんを含めて一定の合意になりましたので、たしか十二日の午前一時三十分だったと思いますが、私も了解の下、海江田大臣の方からベントをするようにという指示を出しましたので、私としては当然指示に沿ってベントは的確に行われるものと考えておりました。‥中略‥ 
○内閣総理大臣(菅直人君) 私は、まさにあらゆる人がこういうことが事実上初めてのまさに経験であった中で、少なくとも当時、ベントに関してもなかなか、官邸にあった対策本部から東電関係者、集まっていた関係者にこれでいこうといって指示を出してもそれが実行されない、こういう中で、やはり官邸と本店と現地という三段階でなかなか事実関係を含めて状況が把握できないという中で、大変な状況であるからこそ私としてはやはり現地を見て、現地で責任を持っている人の話を聞こう、現実に話を聞くことができて、ベントも私の方も改めて指示をしてその後の対応につながったと私は思っておりまして、そういう意味では、そのことは、私はその後の対策を考える上で一定の効果があったと、このように考えております。
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さらに菅総理は、翌週4月25日の参議院予算委員会において、「ベントの問題も含めて指示をちゃんと大臣の方から出したにもかかわらず、それが遅れたのはいろいろ事業者の方に事情があった」と述べ、ベントの遅れの責任はすべて東京電力側にあるとの認識を示した。
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○内閣総理大臣(菅直人君)‥中略‥ 今話をされましたけれども、まさに情報がどこに集まってくるかということがなければ判断はできません。当初、当然ながら、二つの本部は官邸に置きました。そして、その十一日の夜から官邸の、今設計に携われたというのは初めてお聞きしましたけれども、その地下にあります危機管理センターに関係者を集めました。東電の関係者、原子力安全委員会の関係者、保安院の関係者を集め、そして海江田大臣とともにその情報を把握して対応いたしました。しかし、残念ながら、必ずしもあのベントに対する指示もなかなか対応してもらえないとかいろんな問題がありました。余り長くなりますから後は端的にしますが。‥中略‥ 
○内閣総理大臣(菅直人君)‥中略‥ そして、もうその間に、先ほど、この間いろんな議論が出ておりますけれども、ベントの問題も含めて指示をちゃんと大臣の方から出したにもかかわらず、それが遅れたのはいろいろ事業者の方に事情があったということも、せんだっての国会の審議で東電の方からも説明があったところであります。
 そういった意味で、決して私たちが数十時間何もしないで指をこまねいていたのではなくて、最大限の努力をやって、そしてそれなりのことはやりましたけれども、結果として、残念ながら水素爆発等が起きて、その後の展開になってきたということであります。
‥中略‥ 
○国務大臣(海江田万里君) 私がその時間ずっと総理と一緒にいましたから、私からお答えをさせていただきます。
 総理も私も、再三東京電力に対してベントを行うようという指示を出しました。それは、今お話のありましたような状況で、大変この炉が危ないという認識の下にそういう指示を出したところでございます。
 ところが、それがなかなか実現できなかったということで、その一つの理由は、やはり電源が失われていたからだろうと思います。それから、かなり時間がたっておりましたので、やはりその炉の中に、これは少なくともその原子炉の建屋の中に入っていかなければ、もう電気でベントをやるわけにいきませんから、そうすると最後は手動ということになりますから、手動ということになりますとやはりかなりの被曝も覚悟をしなければいけないということで、その意味で恐らくこれは東京電力がためらっていたというか、そういう態勢ができなかったんであろうというふうに思っております。

○内閣総理大臣(菅直人君) 何度も申し上げていますが、もうベントの指示は何度となくされておりまして、特に、午前一時三十分には経産大臣の方からベントをするようにということをきちんと指示しておりまして、そういう意味で、なぜ、逆に言えば、後になっていろいろ説明を受けましたけれども、その時点では少なくとも、官邸にある危機管理センターに東電の関係者もいて、ベントをするようにと言ったら、分かりました、じゃ、それを向こうに伝えますという話でありましたから、当然私としてはベントが行われるものというふうに認識しておりました。
○福岡資麿君 そのベントをやっていなかった、実際に飛び立たれたときはまだベントをやっていなかった。そのことについては認識していなかったということでいいんですか。
○内閣総理大臣(菅直人君) いや、認識をして、なぜ、だから現地に行ったときも早くベントをするようにということを改めて指示をいたしました。
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このように国会答弁の中で菅総理が述べているポイントは次の二つである。
① 経済産業大臣を通じてベントの指示をしたのは3月12日午前1時30分頃だった。
② 何度もベントの指示をしたが、東京電力側の事情でベントの実施が遅れた。
要するに菅総理は早い段階で東京電力にベントの指示をしたにもかかわらず、東京電力が従わなかった、あるいは東京電力側の事情でベントの実施が遅れたとの主張である。

この説明自体、不可解な部分がある。その後の記録によれば、政府からの正式なベントの命令(原子炉等規制法64条3項に基づく)は3月12日午前6時50分に発出されている。3月12日午前1時30分以降、東京電力が政府の指示に従わなかったと主張するなら、どうしてこの正式なベントの「命令」を早い段階で(例えば3月12日午前1時30分以降すぐに)発出しなかったのか。

この疑問を解く鍵は3月12日午前3時12分~同32分に行われた枝野官房長官の記者会見にある。このときの官房長官記者会見の内容と国会での菅総理の答弁内容とはまったく話が逆になっている。このときの枝野官房長官の記者会見のポイントは以下の2点である。
① まず、東京電力側からベントの必要性について官邸に対して報告がなされた。
② その報告に対し、官邸の側から(記者会見なりで)国民に報告するまではベントを実施しないよう「指示」した。
記者会計が行われたのは3月12日午前3時12分からであったから、少なくともそれまでは首相官邸が東京電力に対してベントをしないよう「指示」していたこととなる。

実際の記者会見の模様は以下で確認されたい。
http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg4477.html
※なお、ビデオのタイトルには「平成23年3月12日(土)午前2-内閣官房長官記者会見」とあるが、これは同日午前の記者会見のうち2回目(1回目は午前0時15分から)という意味である。首相官邸の記録によれば、この2回目の記者会見は3月12日午前3時12分~同32分の20分間行われている。
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【枝野官房長官】‥中略‥ 当事者である東京電力、及び経済産業大臣からも発表をいたしておりますが、福島第一原子力発電所について原子炉格納容器の圧力が高まっている恐れがあることから、原子炉格納容器の健全性を確保するため内部の圧力を放出する措置を講ずる必要があるとの判断に至ったとの報告を東京電力より受けました。経済産業大臣ともご相談をいたしましたが、安全を確保する上でやむを得ない措置であると考えるものであります。‥中略‥ 
【記者】総理が原発を視察されるという時っていうのは、すでにもう原発での大気への作業っていうのはやっているんですか? 大気への作業というのは何時頃やるんですか?
【枝野官房長官】これは東京電力が技術的な点を含めて最終的な調整をする話ではありますが、これを行う前にしっかりと国民の皆さんに予めご報告しなければならないということを東京電力の方に要請というよりも指示をいたしまして、それでこの時間に、 経済産業省及び官邸でご報告しましたのでそんなに遠くない時間になると思っております。‥中略‥ 
【記者】先ほど1時40分に出された発表資料で予測の時間帯が書かれてまして、27時20分に原子炉格納容器設計最高圧に到達と、原子炉格納容器ベントにより放射性物質が放出されると、ここには何時って書かれていないんですけど、これは3時20分を指すと思うんですがその辺の説明をしていただければと。
【枝野官房長官】それは多分原子力保安院が可能性をお示ししたものだろうというふうに思っておりますが、そうした可能性の前提も含めて実際にこのベントを開けるという段階よりも前にちゃんときちっとご説明申し上げなければいけないということで、3時で経産省と私の方とで発表するということでございますので、あの具体的な詳細な時間はまさに現場の作業の手順段取り等によりますので若干のズレがあり得るかと思いますが、そう遠くない時間に圧力を下げる措置に着手するものと思っております。
【記者】そういうことは現時点では同時並行で進んでいるとことではないということですか。
【枝野官房長官】少なくとも発表してからにしてくれということは要請というよりかなり指示に近い形で東京電力には申し伝えてあります。経産省、それから私の方でもう発表いたしましたので作業の手順に必要ならば入っていてもおかしくないと思います。
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その後、政府からの正式なベントの命令(原子炉等規制法64条3項に基づく)は3月12日午前6時50分に発出された。ちょうど菅総理が陸上自衛隊のヘリコプターで福島第一原発に到着する20分程前のタイミングである。

それでも疑問は残る。3月12日午前3時過ぎの記者会見の際、枝野官房長官は、その時点以降、東京電力によるベントを許す旨を述べている。しかし実際の正式なベントの命令(原子炉等規制法64条3項に基づく)は3月12日午前6時50分まで4時間近くも遅れている。それも防護服も身につけていない丸腰の首相がヘリコプターで間もなく(後に既にメルトダウンしていたことが判明した)福島第一原発に到着するという絶妙のタイミングである。邪推だが、菅総理が福島第一原発の現場でベントの指示をするというパフォーマンスを演じたかったのではないか。そのためにあの緊迫した状況の中、報道陣まで帯同したのではないか。

いずれにしても、国会(4月18日及び25日)での菅総理の答弁内容と3月12日午前3時12分からの枝野官房長官の記者会見の内容とは矛盾していることを指摘しておく。