日銀による新基金の創設を強く支持する。 | 桜内文城オフィシャルブログ「みんなきさいや」Powered by Ameba

日銀による新基金の創設を強く支持する。

1.昨日(10月5日)、日銀の政策委員会・金融政策決定会合において「包括的な金融緩和政策」の実施が決定された。主な柱は以下の3つ。①ゼロ金利政策の復活、②「中長期的な物価安定の理解」に基づく時間軸の明確化、そして③資産買入等の基金の創設である。



2.このうち特に③資産買入等の基金の創設に注目すべきである。当該基金のポイントは以下の通り。


・オンバランス(日銀のバランスシート上)で基金を創設。要は、基金のファイナンスを日銀が直接行う。


・買入対象資産の範囲:国債、CP、社債、指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J-RIET)、資産担保証券(ABS)等の金融資産。


・基金の規模:35兆円。資産買取(5兆円)と固定金利オペ(30兆円)。


・基金による国債買入について、日銀による国債保有残高の上限(日銀券ルール)の対象外とする。



3.金融政策の目的として重要なのは、市中に流通する通貨の総量(マネーストック)のコントロールであると考える。社会会計上、市中に流通する通貨の総量(マネーストック)を増加させるためには金融機関(中央銀行または民間金融機関)による企業等への貸付または投資を増加させるほかはない。


通常、政策金利を低下させることを金融緩和と呼ぶ。これは、金利の低下→企業の設備投資需要が増大→民間金融機関の貸付・投資が増加→市中に流通する通貨の総量(マネーストック)が増大・・という因果関係が成り立つと考えられているからだ。しかし、物価水準の下落が続くデフレ状況の下では、いくら名目金利がゼロとなっても実質金利(=名目金利-物価上昇率)が高止まりするため、上記のような因果関係が成り立たない。そこで、中央銀行が直接市中に流通する通貨の総量(マネーストック)を増加させる「量的緩和」政策が必要となる。


ここでかつて日銀が自ら「量的緩和」と称する「超過準備ターゲット」政策について振り返っておこう。2001年3月から2006年3月にかけて、民間金融機関の日銀当座預金(準備預金)残高の目標水準を30-35兆円規模とする政策を日銀は実施した。しかし、「超過準備ターゲット」では日銀のベースマネー(日銀券発行残高+日銀当座預金残高)は増大するものの、民間金融機関から市中への貸出・投資は必ずしも増加しない。これを会計的にみると、民間金融機関の資産(貸付金や国債など)が日銀当座預金に置き換わるだけで、日銀のベースマネーと市中に流通する通貨の総量(マネーストック)の関係、すなわち信用乗数は日銀のベースマネーの伸びに反比例して低下する。実際、日銀のバランスシートは巨大化し、ベースマネーもほぼ倍増したが、民間金融機関の側ではむしろ不良債権処理のために貸付金の回収(俗にいう貸し渋り)が多発し、その間、市中に流通する通貨の総量(マネーストック)はほとんど増加しなかったことが統計的にも確認されている(詳しくは日銀の時系列統計データ検索サイト を参照)。


今回の資産買入基金の創設の場合、かつての「超過準備ターゲット」と異なり、当該基金を通じて日銀が直接市中に通貨(マネーストック)を注入することとなる。従って、基金の規模が大きくなればなるほどその分市中に流通する通貨の総量(マネーストック)が増加するのだ。



4.僕自身、今年の2月に「【試論】経済復興基金(50-100兆円規模)の創設について 」と題する記事をブログにアップし、デフレ脱却に向けた量的金融緩和政策の提言を行ってきたところである。その提言の最も重要なポイントは、50-100兆円規模の基金を創設し、その資金調達のための出資証券を日銀が直接引受けることにある。これにより当該基金を通じて日銀が直接市中に通貨(マネーストック)を注入し、デフレからの脱却を図るという趣旨が今回の日銀による基金創設と完全に一致している。


早期のデフレ脱却を確実なものにするためにも、日銀は今回の資産買取基金の規模を50-100兆円に拡大するとともに、買取り対象資産の範囲をさらに拡大すべきである。今回の資産買取基金の創設によって、日銀はようやくデフレ脱却に向けた第一歩を踏み出したものと評価し、今回の決定を強く支持するものである。