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著者として思うこと

桜内文城です。
今日は、アマゾンのある読者レビューについて著者として思うことを述べます。なお、その読者レビューはその後文章の一部が書き換えられていますが、その経過等についてはこちらをご参照ください。



この読者レビューをみて、本書「公会計:国家の意思決定とガバナンス」(NTT出版)を通じて著者として読者の皆様にお伝えしたかったことがきちんと理解されていなかったことがわかり、大変ショックを受けるとともに、また残念にも思いました。私の書き方に至らない点があったのかも知れませんが、実際に本書をよくみていただければ、上記読者レビューには事実誤認や誤解に基づく部分が多々あることがご理解いただけようかと思います。具体的には以下の通りです。


●一点目 「三、本書の本文にはまったく註がつけられていない。そのため、本書を研究書として読んだ研究者は、たちまち行き詰まってしまう。」とありますが、本書ではp. 40から始まってp. 216に至るまで、全部で21個の脚注をつけています。
●二点目 上記に続いて「299頁以降に参考文献一覧が掲げられているだけで、本書の本文のどの箇所と関連しているのか全然わからない。」とありますが、本書では、参考文献の本文への引用・参照方法として、社会科学系の英語論文で最も一般的なAPA(American Psychological Association)スタイルというものを採用しています。例えば、本書のp. 7では(神野, 2002, p. 102)とありますが、これは、(著者名, 発行年, 引用・参照ページ)を意味しており、巻末の参考文献一覧から他の研究者が検証できるようにしています。
●三点目 コメントの中ほどに「疑問なのは、どうして公的年金制度が終了するという前提を置かなければならないのか、という点である。本書ではこの考察がまったくないが、どうして避けているのだろうか。」とありますが、本書の同じページ(p. 292)の文章では、公的年金制度においても民間保険会社と同様の「標準責任準備金制度」を採用すべき旨を述べ、その場合、公的年金制度が終了するという前提(企業年金と同様の非継続基準)で責任準備金の計算を行うことになる・・という文脈となっており、「本書ではこの考察がまったくない」訳ではありません。そもそも本書のこの部分(付録3の最後の部分)は、単に責任準備金の測定方法という会計的な側面を補足説明しているにすぎないのであって、実際に公的年金制度を終了すべきか否かという問題とは無関係だということは、本書から自ずと読み取れようかと思います。



公会計という領域自体、まだまだ学問研究としては未発達であり、上記読者レビューをはじめさまざまなご意見があることは十分に承知しています。しかし、アマゾンのサイト上の読者レビューに対してコメントすることは不可能なので、ここで敢えて言わせていただければ、今回の読者レビューのように些か不注意な誤解に基づく無責任な書き込みのために、せっかく新書等を通じて公会計という新しい学問領域に関心を持ち、より専門的な本書にまで手を伸ばそうとしていた読者の皆様の気がそがれてしまうのは大変残念でなりません。
もしも本書にご関心を持たれた向きは、インターネット上のバーチャルな情報だけを鵜呑みにするのではなく、ぜひ書店で実際に本書を手にとってその中身を確認していただきたいと思います。専門的な研究書としても、あるいはやや堅めの経済書としても、読者の皆様のご期待に背かないものであると、著者として固く信じています。確かに、執筆の過程では時間的な制約や校正段階での不備等もありましたが、著者としては、腕も折れよとばかりに書ける限りの力を尽くして書き上げたつもりです。
とにかく著者としては、本書等を通じて我が国の財政のあり方に関する問題意識が一段と高まることを期待しており、本書がそのための前向きな議論のたたき台になるのであれば、これ以上の喜びはありません。読者の皆様の建設的かつ積極的なご意見をお待ちしております。



2005年2月15日 桜内文城