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公会計概念フレームワーク

桜内文城です。



今月、日本公認会計士協会・公会計委員会のIPSASB(国際公会計基準審議会)対応専門部会の会合に3回にわたり、出席しました。



現在、国際会計士連盟(IFAC: International Federation of Accountants)の国際公会計基準審議会(IPSASB: International Public Sector Accounting Standards Board)において、会計基準の基礎概念などを規定する「概念フレームワーク(Conceptual Framework)」の議論が進められています。今月の日本公認会計士協会での会合では、IPSASBの事務局提案(下記資料1)に対して日本公認会計士協会としてのコメントをつけるという作業が行われました。まだ議論は始まったばかりで、全部で4つの議論(フェーズ)の第1段階にすぎませんが、公会計の財務報告の目的など、非常に重要な論点が含まれています。



【資料1】「consultation_paper_conceptual_framework_ipsasb1.pdf」をダウンロード





概念フレームワークは、会計基準を設定する際、各勘定科目の定義や認識・測定方法において論理的な整合性を保つため、大きな方向性を示すものです。概念フレームワークに反する会計基準の規定は無効だという意味で、会計基準にとっての憲法のような存在だとも評されます。



日本公認会計士協会ではこういった国際的な議論に先駆けて、2001年7月に「公会計フレームワーク検討プロジェクトチーム」を設置したうえで、2003年3月に討議資料「公会計概念フレームワーク」(英文版は下記資料2)を公表しました。



【資料2】「050912_conceptual_framework_for_public_sector_accounting.pdf」をダウンロード



今回の国際公会計基準審議会(IPSASB)の事務局提案において重要な点は、「財務報告の目的」として、①説明責任目的(accountability purposes)と②資源配分、政治的及び社会的な意思決定(making resource allocation, political and social decisions)の二つが挙げられていることです。この点、我が国の公会計概念フレームワークにおいても、①アカウンタビリティ(政府の受託者責任の明確化)と②ガバナンス(政府の資源配分に関する意思決定の規律付け)を挙げており、ほぼ全面的に我が国の主張が受け入れられたものといえます。



この「財務報告の目的」という論点は、公会計に関するすべての議論のスタート地点です。そこから正確にロジックが展開されていくことで、例えば「財務報告の範囲」についても、決算情報だけでなく予測財務情報が含まれることが導かれるほか、資産や負債の定義、その評価方法、財務情報の表示方法(財務諸表体系)など、重要な方向性が論理的に導かれていくのです。



ちなみに、我が国の地方自治体向けの会計基準(総務省・新地方公会計制度研究会報告書「基準モデル」)第24段落においても、同様の趣旨の規定が置かれてます。「公会計の基礎概念の観点からすれば、この財務書類を作成する目的は、地方公共団体が住民に対してその責任を会計的に明らかにするという意味で、「パブリック・アカウンタビリティ」にある。具体的には、決算分析のための情報(以下「決算情報」という。)を会計的に明らかにすることと、予算等の政策形成上の意思決定を住民の利益に合致させるための参考情報を提供することを意味する」。その意味でも、我が国の公会計基準は国際的なデファクト・スタンダードともなり得るクオリティを備えているといえるでしょう。





これまで企業会計の分野をはじめ、各国の国益がぶつかり合う国際的なルール設定の場で日本政府がきちんと主張すべきことを論理的に主張していくことができず、我が国の国益を著しく損なうことが多々ありました。銀行業務に関するBIS基準(自己資本比率規制)などは、日本に「失われた10年」ともいわれる1990年代のバブル崩壊とそれに伴う経済危機をもたらしたとさえいえるのではないでしょうか。スポーツの世界でもそうです。背泳のバサロ泳法、スキーのジャンプ、柔道の得点制など、日本人が努力に努力を重ねてきたにも関らず、その努力を無にするような国際的なルール変更が相次いできました。



今回の議論は始まったばかりですが、我が国が国際的なルール作りをリードしていくことにより、真の国益を守っていくという、一つの先駆けとなれば・・と願っています。