この世界は俺には残酷すぎて。Karte.END
BL要素含みます
「ココでお願いします」
俺と和が乗ったタクシーが細い山道で止まる。
和の手にはこじんまりとした小さな和菓子
そして俺の手には
………………白いユリの花。
智「和、忘れ物ねえか」
和「うん、大丈夫」
智「じゃあ行くか」
清らかな川のせせらぎが聞こえる緑豊かな高台にある小さな墓地。
さらにそこから山を登って行くとこじんまりとした小さな墓がぽつんと一つだけ見えた。
あの後、俺達は「番」となって共に暮らし始めた。
特殊同士の「番」の話はすぐにその研究に携わる者たちの話題となり、海外からは考えもつかないほどの多額の金を積まれて俺達を是非研究材料に迎えたいと何度も誘いを受けた。もちろん国からも今後もこの研究に携わるよう何度も要請を受けた。
でもそんな俺達を最後まで守ってくれたのは誰でもない
………………教授だった。
そして教授は俺と和の生活がようやく落ち着いた頃ひっそりと一人寂しくこの世を去った。
俺は和と「番」になった時、教授との約束を一つ破った。
「子供を作らない」
教授が望んだその約束を破った事に関しては今でも俺は後悔はしていない。
その代わりに俺は「国の保護下」になるという約束を守る為に教授がこの世を去った後自ら国に申し出て和の代わりに月に一回の検査を受け今後生まれてくるであろう特殊な「属性」の人のために研究協力をし始めた。
それがあの人への
あの教授への唯一の俺にしかできない
………………恩返しだと思って。
智「和、そこで水を汲んできてくれ」
和「あ、うん」
和はあれから『発 情 期』も来ることもなく、俺が月一の研究時に貰って帰る「避 妊 薬」だけを飲んで普通に暮らしている。
今まで『属性』のせいで出来なかった事があるのなら好きなだけやればいいと何度も言ってるのに俺の側にいることだけを頑なに望んだ。
「俺のそばに居る事」
………………それが俺の今の幸せだと。
智「なあ、和」
和「ん?なに」
智「番になっても『Ω』属性ってのは変わらねえのな」
和「え、突然何の話?」
智「ん〜なんでもねえよ、ほら、水入れろよ」
和「わかってるって」
俺は白いユリを墓に飾るとポケットから青いカプセルを取り出した。
智「ほら、この間な新薬が出来たんだってよ、あんたの研究チームの奴達が作り出したんだ。今までよりも更に安全なやつなんだとさ、それも聞いて驚くなよ。OD錠だってよ、すげえよな」
俺は墓に向かって話しかけながらその薬をそっと墓の前の置いて立ち上がった。
そんな俺の腕に和の腕がそっと絡まる。
智「どうかしたか?」
和「ううん………………ありがと、智」
智「なんだよそれ。俺は一応報告に来ただけ、どうせ天国で気にしてるだろーしな、あのおっさん」
和「おっさんとか言ったら怒られるよ」
智「でも、あいつになら………………怒られても良かったかもな」
和「ん?何か言った?」
智「なんでもねーよ」
山風がふわっと吹いて若々しい草木の香りが鼻を擽る。
身体をキュッと丸めた和を見て俺は和の背中を抱き寄せた。
智「じゃあそろそろ帰るか、たしか今日は翔が家に来る日だったよな」
和「そうだよ、新しい彼氏さん連れて来るって言ってた」
智「は!?………………また男かよ」
和「いいじゃない、翔君が選んだのなら」
智「まぁ、あいつを幸せにしてくれるやつなら俺は男でも女でもいいけどな」
和「そうだね」
その時今度はさっきよりも強い風が山から吹いて
墓の前に置いたOD錠が風に靡いて宙を舞いながら側に流れる小さな川に落ちて
………………溶けていった。
智「なんだ、………………もう試したのか?」
和「ふふっ、かもしれないよ、教授は案外セッカチだったからね」
智「ふ〜ん」
和「ん、何?」
智「少しだけヤキモチ妬いた。俺はお前の小さい頃を知らねえからな」
俺は和の頬に軽くキ スをして
………………その手を強く握った。
和「でも教授は今の俺を知らないよ?穏やかに毎日暮らしている俺の事を」
智「それもそうだな」
智「よし、行こうか、和」
和「うん」
俺達は指を絡めて強く手を繋ぎ合った。
じゃあまた来るよ。
………………この時期にな。
この残酷な世界から俺達を救ってくれたのは間違いなくあんたのおかげもあるからな。
そう思いながら俺達は山を降りた。
そんな俺達を見守るように墓に飾ったユリは静かに風に靡いて
………………揺れていた。
FIN。