施設長の若山三千彦が書く犬のエッセイ、「大喜と文福」の第2回です。
大喜と文福がホームにやってきたのは、ホーム設立の年、2012年。
この年、彼らが暮らすユニット(2-1ユニット)には、もう1匹のワンコがいました。
福島県の原発避難エリアから救出された被災犬のむっちゃんです。
★左から、むっちゃん、大喜、文福。大喜も文福も若かったっ!
最年長であるのに加え、落ち着いた雰囲気、中国風に言えば「長者」の風格があるむっちゃんは、自然な形で群れのリーダーになりました。
大喜も文福もむっちゃんを慕い、頼りにし、喜んで従っていました。
この頃は、3匹が群れの仲間であるという意識が強く、大喜と文福の関係性は薄かったように思います。
大喜も文福もまだ若く、むっちゃんの庇護下で好き勝手やっている、という感じでした。
むっちゃんのことはリーダーとして慕いながら、大喜と文福はお互いのことは、「あいつはあいつ、俺は俺」という感じでいたのだろうと思います。
大喜と文福が今のような確固たる絆を結んだのは、2年後にむっちゃんが虹の橋に旅立った後です。
★若いころの文福
2匹の関係性が変わったことに気が付いたのは、ドッグトレーナーの先生をよんだ時のことです。
職員に犬の扱い方を指導してもらうためにドッグトレーナーの先生をお願いしたのです。
ユニットにやってきた先生は、真っ先に寄ってきた文福に、「お手」とか「お座り」とかのコマンドの確認をしていました。
その時、大喜が先生と文福の間を横切ったんです。
先生は、「ああ、こっちの子が守ってますね」と大喜を見て微笑みました。
間を横切るという行動は、群れのリーダーが仲間を守るためにする行動だそうです。
責任感の強い大喜は、むっちゃん亡き後、自分がこの群れを守らなければと決意していたんですね。
こうして、大喜はユニットの犬たちのリーダーになりました。
文福もそれを認めていました。
例えば、お客さんが入ってきて、文福がワンワン吠えていると、大喜がガウッと文福をしかりつけます。
そうすると、文福はおとなしくなるんです。
大喜の言うことに従うんですよ。
私たちは、お散歩に行く時、ご飯を上げる時、まず大喜に、次に文福、という順位を守ることにしました。
それで、一層、大喜と文福は精神的に安定したと思います。
★若いころの大喜
もちろん、文福は大喜にライバル意識ももっています。
2匹そろって散歩に行っていたときは、大喜より先に玄関から出ようと頑張っていました。
2匹そろってドッグランに出れば、思いっきり走って、「俺は大喜より早いぞ」とアピールしていました。
大喜は相手にしていませんでしたが。
そして歳月がたち、大喜は腰が悪くなり、早く歩けなくなります。
初めて大喜が腰痛で立ち上がれなくなった時、文福は心配そうな目を向けて、しゅんと元気がなくなっていました。
それからは、力では大喜は文福に全然かなわなくなったはずですが、2匹の関係性は変わりませんでした。
歩くのが少し不自由な大喜を文福はリーダーとして認め、従っています。
それは今でも変わりません。
リーダーに従うというと、主従関係のように聞こえてしまいますが、ちょっと違います。
人間でいうバディに近い関係に見えます。
文福は大喜をバディの先輩として認め、従っているのです。
2匹でバディを組み、力を合わせて群れ=ユニットの仲間たちを守っているのでしょう。
その仲間には、ご入居者様も入ります。
大喜と文福は、大切な仲間の犬達と、ご入居者様を守ろうという意識を共有しています。
それこそが、2匹の絆なのでしょう。