この記事は、施設長の若山三千彦が書く犬のエッセイです。
今回のエッセイは、今週ヨミドクターに掲載し、おそらく本日Yahoo!に配信されている私のコラムと連動しています。
そちらのコラムは2週間前と2回続きとなっていますので、できればそちらを先にお読み頂いてから、このエッセイをお読み頂けると、より状況が実感できることと思います。
このエッセイは、私達のホームがオープンした、2012年の秋に、飼い主のご入居者様である田中久夫さん(仮名)と一緒に入居した、ダルメシアンのアミちゃんの思い出を語ります。
アミちゃんと田中さんは、ワンコの同伴入居(ご高齢者様が愛犬と一緒に入居する事)の第1号でした。
猫の方は、チョロと飼い主のご高齢者様夫婦が春に入居していましたし、ホームの犬としては、保護犬の文福、大喜、もえ、プーニャンが入居していましたが、ワンコの同伴入居はまだなかったんですね。
認知症が重度になり、家事が出来なくなり、ご近所の人に支えられて辛うじて命をつないでいた田中さんとアミちゃん。
ホームに入ってからは、穏やかで満ち足りた生活をしていました。
アミちゃんがどう感じていたかは、推測するしかありませんが、見て下さい。この顔。
アミちゃんも幸せだったはずと私達は思っています。
田中さんとアミちゃん。
長年2人きりの生活をしてきました。
ホームに入ってからも、いつも一緒でした。
寝る時も一緒。
アミちゃんはいつも田中さんのベッドで寝ていました。
食べる時も一緒。
ちなみにこの写真、田中さんがアミちゃんにあげているのは、ワンコ用のオヤツです。
田中さんのお食事を分けているのではありません。
2人暮らしの時は、田中さんのお食事を分け合っていたのですが、ホームに入ってからは、人間の食べ物は与えていません。
田中さんには、ワンコ用のオヤツを上げてもらうようにしました。
田中さんは、アミちゃんが喜んで食べているので、ワンコ用オヤツでも納得してくれました。
リビングでも一緒に過ごしています。
車イスの田中さんの隣には、いつもアミちゃんの姿がありました。
実は田中さんは認知症の症状で、すぐに怒って怒鳴り声をあげるので、職員にとっては、大変なご入居者様だったのですが、
綺麗で賢いアミちゃんは職員の人気者でした。
大勢の職員とご入居者様に可愛がってもらい、アミちゃんは嬉しそうでした。
田中さんは、アミちゃんに他のご入居者様や職員が近づくと怒って怒鳴り声を上げるのですが、
そこはアミちゃんがうまくやってくれました。
こうして、たくみに、田中さんの目を盗んで、他のご入居者様に甘えていました。
アミちゃんのご飯を用意するのも職員ですから、やはり巧みにご飯をもらいにきていました。
同じユニットで暮らす、専従犬で、保護犬出身のプーニャンとは大親友になりました。
アミちゃんとプーニャンが楽しそうにドッグランを走り回り、じゃれ合う風景は、ご入居者様に大人気でした。
2人がドッグランに出ると、たくさんの窓からご入居者様が笑顔で眺めていました。
アミちゃんの幸せな生活が長続きするとよかったのですが…
同伴入居してから2年弱が経った、2014年の夏、アミちゃんは虹の橋に旅立ってしまいました。
長年人間の食べ物を食べていたため、塩分が強すぎて、腎臓がダメになっていたんです。
亡くなる1週間前、アミちゃんは立てなくなってしまいました。
そんなアミちゃんをベッドに入れて、田中さんは寄り添って看病しました。
一週間、片時もアミちゃんのそばを離れませんでした。
アミちゃんは、人間で言うと、人工透析が必要な状態で、激痛を感じているはずだと獣医さんは言っていました。
しかし、アミちゃんは、まったく辛そうな表情を見せませんでした。
田中さんとずっと一緒にいられて幸せそうでした。
大好きな飼い主さんと片時も離れず過ごした最期の一週間。
飼い犬にとって、これほど幸せな最期はないのではないでしょうか。
アミちゃんが虹の橋に旅立った数か月後、田中さんもご逝去されました。
とても穏やかな最期でした。
今頃、アミちゃんと田中さんは虹の橋で幸せに暮らしていることでしょう。