文福との出会い | さくらの里山科公式ブログ ご入居者様とワンちゃん、猫ちゃん

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施設長の若山三千彦が書く文福をテーマとしたコラムです。

 

※このコラムは、「マンガ看取り犬・文福の奇跡」(Gakken社)に収められているコラムに加筆修正したものです。ご了承下さい。

 

私は、文福と初めて会った日のことを、今でも鮮明に覚えています。

 

※私が文福と初めて会った時の写真。ちばわんさんが撮影した写真なので、私の顔が隠されています。

 この時文福は推定2~3歳です。

 

2012年4月7日、開設間もないさくらの里山科にやってきた文福は、元気いっぱい、生命力に溢れたワンコでした。

私に初めて会った瞬間、文福は私に跳びついてきました。その時、私には文福の心の声が聞こえたのです。

「僕、いい子にするから、ここに置いて下さい。お願いします。」

そんな声がはっきり聞こえた気がしたのです。

 

※やはり私が初めて文福に会った時の写真です。

 

これは、当時私が感じたことをそのまま書いていますから、文福の声も「僕」となっています。

今なら、「俺はいい子にするから、ここに置いてくれよっ!なあ、頼むじゃん!」と書きますね。

 

文福は保護犬、すなわち保健所(動物愛護センター)で保護された犬です。

文福がいた保健所は古いタイプのものです。

保護犬達が入れられた部屋の仕切り壁が動き、一日ごとに犬達は隣の部屋へと追いやられます。

7日目の部屋が、殺処分をするガス室です。

文福はそこで、6日目の部屋まで行ってしまいました。

壁一枚隔てた隣の部屋で、命を奪われる犬達の悲鳴を聞いて怯えていたのです。

 

※3点とも、ちばわんさんが撮影した、保健所にいた時の文福です。

 私は今でも、これらの写真を見ると涙を抑えられません。

 

そんな文福を救い出してくれたのは、動物愛護団体の「ちばわん」です。

「ちばわん」は、毎年100頭を超える保護犬・保護猫を保健所から引き取っています。

引き取った保護犬、保護猫は、「ちばわん」のボランティアさん達が自宅で預かります。

自宅で一緒に暮らしながら、人と一緒に暮らせるトレーニングをしてくれるんですよ。

一方「ちばわん」では、譲渡会などで、保護犬、保護猫を飼ってくれる里親さんを探しています。

 

一時的に預っている場所は、ボランティアのスタッフさん達の自宅な訳ですから、普通の飼い犬と同じ生活です。

保護犬や保護猫も、そこを我が家と感じて、落ち着くのでしょう。

しかし、中には、自分がいつまでもその家にいてはいけないのだなと察する犬がいるそうです。

文福もそんな一匹でした。

死の淵に追い詰められ、この世に居場所がなくなる寸前だった文福は、「ちばわん」のスタッフさんの家にきても、そこがまだ自分の居場所ではないとわかっていたのです。

だから文福は、さくらの里山科に来た時、私に「お願いです。ここに置いて下さい。」と訴えてきたのです。

 

※ちばわんのボランティアさんのお宅にいた頃の文福。2012年の初め頃だと思います。

 

それから今にいたるまでの10年間、文福はいつも私に会うと、大喜びで跳びついてきます。

しばしば本ブログにもアップしているように、取っ組み合いのようになって私は文福とじゃれあっています。

私はほぼ毎日文福と会いますが、文福が暮らしている2-1ユニットで勤務するアーミーさん達職員のように、いつも一緒にいる訳ではありません。

それなのに、私に会った時が一番喜ぶので、アーミーさん達は「本当に文福は施設長が好きなのね~」と言って笑っています。

 

※2021年春撮影

 

でも実は単に喜んでいるだけではないのです。

これは私だけが知っていることです。

文福はいつも私に跳びついてくると「僕、いい子にしているでしょう!お願いです。このままここに置いて下さい。」

と私に訴えていたのです。

この世のどこにも居場所がなかった文福は、さくらの里山科で暮らしていても、そこが自分の居場所なのかどうか不安に感じていたのです。

いつまでもさくらの里山科にいてもいいのだと信じられなかったのです。

だから、私は、文福がじゃれついてくるたびに、涙が滲みそうになっていました。

 

このことを職員に言うと笑われてしまいます。

アーミーさんだけは、何となく私と同じ思いを感じているようでしたが、

他の職員達には、「それは施設長の思い込みですよ」と笑われてしまいました。

しかし私にははっきりと文福の声が聞こえていたのです。

 

文福の声の内容が変わったのは、5年程が経ったころでした。

「ここが僕の家だよ!僕は嬉しいよ!」

文福の声はそう変わったのです。

それは、この世のどこにも居場所がなかった文福が、ついに自分の居場所を得た瞬間でした!

やっとさくらの里山科が文福の家になったのです。

全ては私の妄想かもしれませんが、私には文福の声が変わったのがはっきりとわかりました。

 

※2014年撮影

 

今でも私は文福とじゃれあうたびに、文福が受けた心の傷の深さを考えずにはいられません。

そして、その深い心の傷こそが、文福が看取り活動をする原動力になっているのだろうと思っています。

 

※注 文福が保健所にいたのは、2011年のことです。その後の10年間で動物行政は大きく変わり、犬猫の殺処分は大幅に減少しました。文福がいた保健所(動物愛護センター)も現在は、わずか7日で殺処分することはなく、保護犬・保護猫がいる環境も改善されたそうです。