前の記事で、ご入居者様にとって、理美容サービスを受けることは、生きるための最低限のケアなどではなく、生きる喜びだと書いておきながら、その理由を書いていませんでした。
という訳で、今回は、ご高齢者様にとって、理美容サービスとはどのようなものか、ということを推測したいと思います。
皆さん、理美容サービスを受けて本当に嬉しそうです。
ほほ笑みながら鏡を見つめる貴婦人のようなご入居者様。
弾むように勢いよく美容師さんとおしゃべりをする賑やかなお婆ちゃん。
美容師さんに色々と注文をつけては、ころころと笑う可愛らしいご高齢者様。
皆さんを見つめていると、その向こうに、若かりし頃の姿が浮かび上がってくるように感じられます。
皆さんきっと、お若い頃、近所の美容室でも、こうやって過ごしていたんでしょうね。
さくらの里山科のご入居者様の平均年齢は約90歳。
皆さんが一番輝いていた頃、すなわち小さなお子さん達を育てていた30歳前後の頃は、60年前になります。
60年前と言うと、1962年、昭和37年です。
あの「サザエさん」の漫画(アニメではありません。長谷川町子さんが描いていた漫画です)が朝日新聞に連載されたのが、昭和26年~昭和49年ですから、まさにサザエさんの時代そのものです。
今も、街の美容室と床屋さんは、ご近所さんの交流の場ですが、昭和30年代は、いっそう濃密な交流がありました。
「2丁目の角の山田さんの息子さんが3浪してやっと大学に受かったそうよ。」
「あそこの酒屋さん、店を広げるようよ。もうかっているのね~」
「牛乳屋のご主人、息子さんにすっかり商売を譲っちゃって、最近は釣りばかり行っているって話よ」
なんていうご近所の噂話が美容室で飛び交っていたことと思います。
当時は、自営でお店をやっている家が多く、そこに買い物に行きますから、ご近所さん同士の接点が多かったんですよね。
ちなみにふた昔前まで、特別養護老人ホームの評議員には、近所の牛乳屋さん、お米屋さん、酒屋さん、ガス屋さん(灯油など燃料屋さん)が多かったんですよ。
評議員と言うのは、外部の人にお目付け役を頼む名誉職的な仕事です(今は厳しくて、名誉職ではありません)。
そして、地域に開かれた施設とするためには、評議員に近所の方をお願いすることが望ましかったんです。
地域で顔が広い人というと、牛乳屋さん…など、地元でお店を代々やっている人だったんですよね。
今ではそのような昔ながらのお店はほとんど姿を消してしまいましたが。
ご入居者様が若い頃は、そのようなお店は元気で、地域のコミュニティも活発で、美容室や床屋さんでは、近所の方々が賑やかに話を交わしていたことでしょう。
ご入居者様は、理美容サービスを受けながら、その時代を思い出していたのかもしれません。
そして、その時代こそは、小さなお子さんを育てていた時代です。
もしかすると生活は厳しかったかもしれませんが、
そして現代よりは子育ての苦労を大きかったかもしれませんが、
間違いなく、ご入居者様にとって最も幸せだった時代でしょう。
そんな時を思い出していたのかもしれません。
幸せだったころの思い出に浸れる。
理美容サービスは、生きるための最低限のケアなんかじゃありませんよね。