しばらくの間、ペット本紹介シリーズは、ペットの詩などをご紹介していて、本格的な小説をご紹介していませんでした。
振り返ってみれば、1月にご紹介した名作「旅猫リポート」以来、本格小説はご紹介していません。
そこで、今回は久々にペットが登場する本格小説を取り上げます。
姫野カオルコさんが、第150回直木賞を受賞した名作、「昭和の犬」です。
純文学作品です。
読みごたえがある作品です。
主人公の女性の幼少時代、終戦直後から、昭和末期までの人生を描いた作品です。
たんたんと書かれたこの小説に、実は、メインのキャラクターとなる犬は登場しません。
主人公が幼い頃、半ノラのような形でかっていた犬がいて(当時はそのような飼い方が当たり前だったそうです)、
近所のお金持ちが道楽で飼っていた犬がいて
主人公の下宿先の大家さんが飼っていた犬がいて
主人公の晩年、散歩で会う犬がいて
そのような犬達と主人公の淡い関わり合いが書かれています。
唯一、主人公の学生時代、家で飼っていた犬だけが、メインのキャラクターとして登場します。
この本は、犬達と淡く触れ合いながら、淡々と生きていく主人公の姿を通して、昭和と言う時代を語っています。
だから「昭和の犬」なんです。
タイトルにひかれて、犬が活躍する小説を期待して読むと、落胆するかもしれません。
しかし、犬好きの人にとって、犬の存在は生活の一部なのだなと感じさせてくれる小説です。
文学好きの人にはお勧めです。
昭和の犬
姫野カオルコ著
幻冬舎文庫