旅猫リポート ~名手・有川浩が書いた王道の猫小説~ | さくらの里山科公式ブログ ご入居者様とワンちゃん、猫ちゃん

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猫が登場する小説はこれまでなぜか、マニアックな物が多かったのですが、今回はついに王道中の王道ともいうべき猫小説のご紹介です。

 

おそらく猫好きかつ読書好きの人達が、なぜこの作品が登場しないんだ!とお怒りになっていたであろうと思う作品です。

 

お待たせしました!

 

有川浩著、「旅猫リポート」をご紹介します。

 

著:有川浩 出版社:講談社 発行年月:2017年02月 シリーズ名等:講談社文庫 あ127−4

 

●タイトル  旅猫リポート

●著者    有川浩

●出版社   講談社文庫

●価格    640円(税別)

 

 

最初にお断りしておきます。

 

この記事はネタバレです。

 

旅猫リポートはあまりに、あまりに、あまりに、あまりに、あまりに、素晴らしい小説なので、どうしてもそのストーリーや描写に触れずにはご紹介できません。

 

まあ、このシリーズはいつもネタバレなんですが、それでもお断りしておきます。

 

今回は、超ネタバレです。

 

そして、この本、旅猫リポートは、最高に、最高に、最高に、最高に、最高に、最高に、最高に、最高に感動的です。

 

旅猫リポートについては、何名もの職員が推薦してくれました。

 

その中には、有川浩の大ファンで、全て読破している(もちろん全冊所有しています)という者もいます。

 

その誰もが、旅猫リポートを絶賛しています。

 

これ以上感動的な本は読んだことがないと言ってる者もいます。

 

それほどの本です。

 

だから、ネタ、つまりストーリーがわかってしまっても、その感動は0.0000001%たりとも弱まらないと断言できますが、それでも事前にお断りしておきます。

 

超超ネタバレの紹介記事です。

 

ネタバレが嫌な人は、読まないで下さいね。

 

ここで読むのを止めても大丈夫です。

 

ほんの少しだけ猫好きな人、ほんのわずかだけ読書好きな人、このどちらかに当てはまっていれば(両方に当てはまる必要はありません)、絶対に読んで後悔しない本です。

 

超、超、超、超、超、超、超、超、超、超、お勧めです。

 

しかも感動小説と言っても、重苦しい物ではありません。

 

有川浩得意の、軽やかにテンポよく読める、とっても、とっても、とっても、とっても読みやすい小説です。

 

有川浩独特の、爽やかな読後感が得られます。

 

という訳で、ネタバレが嫌いな方は安心して、この紹介記事を読むのを止めて、アマゾンをクリックして下さい。

 

ちなみに、旅猫リポートとは別の有川浩作品「ストーリーセラー」にも猫が登場するので、最後にちょっと触れます。

 

「ストーリーセラー」には、ちょっとした表現の遊びもあって、既にお読みになっている人は、本ブログをここまで読んで、にやりとしているはずです。

 

有川浩という作家は、そのような軽さと感動を併せ持つ、最高の小説家なんですよ。

 

さて前置きが長くなりました。

 

いよいよ旅猫リポートのご紹介に入ります。

 

と言いながら、もう一つ前置きを。

 

ここまでお読み頂いたら、わかって下さると思いますが、思い入れたっぷりで旅猫リポートを紹介していきますので、感情的な物言い満載でいきます。

 

もしかしたら、失礼な言い方もしてしまうかもしれません。

 

全く客観性を欠いた、単なる感情的読書感想文となります。

 

お許し下さい。

 

では、今度こそ、旅猫リポートのご紹介、本番に入ります。

 

 

もうすぐ1歳になる、ちょっと三毛が入ったオスの野良猫の僕は、初めて迎えた冬、銀色のワゴン車の日差しで温まったボンネットで過ごすのがお気に入りです。

 

銀色のワゴンの持ち主、悟とは、フードやおやつをもらう代わりに、少し撫でさせてあげる関係ができています。

 

ある晩、車に引かれてしまい、重傷を負った僕は、必死に銀色のワゴン車の所までやってきて、精一杯声を張り上げて、悟を呼びます。

 

深夜であるにもかかわらず、猫の悲鳴を聞きつけて駆け付けた悟は、猫が自分を頼ってきたことに涙を流します。

 

この本最初の感動のシーンです。

 

悟に動物病院に連れて行ってもらい、看病してもらった僕は、悟の家で暮らすことになります。

 

オス猫としてはちょっと微妙な、ナナという名前をもらって。

 

そして、ナナと悟は幸せに5年間過ごします。

 

しかし、悟は癌を患い、余命1年の宣告を受けます。

 

ここから、ナナと悟の最初で最後の旅が始まります。

 

さて、皆さんおわかりだと思いますが、これがネタバレです。

 

物語の中では、最初は悟の病気のことはあかされません。

 

ただ単に、悟が猫を飼えない事情が生じたとだけ書かれています。

 

そして、旅先で会う悟の友人達は、悟が勤める企業がリストラをしているというニュースを見て、それが悟が猫を飼えない事情なのだろうなと推測します。

 

ナナと悟は、ナナのお気に入りの銀色のワゴンで、悟の友人達の家を回ります。

 

悟の小学校時代の友人、中学校時代の友人、高校時代の友人。

 

彼らは皆、ナナを引き取ってもいいと快諾してくれており、ナナと友人のお見合いが旅の目的です。

 

実は悟は、小学校時代に両親を事故で亡くしており、その後は、転勤の多い仕事の叔母に引き取られました。

 

ですから、小学校、中学校、高校と、全て遠く離れたばらばらの土地で過ごしたんですね。

 

だから全国を回る旅になったんです。

 

しかしナナは悟の身体のことを察しており、悟と別れるつもりはありません。

 

訪れる友人宅で、ナナはお見合いがうまくいかないよう画策します。

 

これがくすっと笑っちゃうようなものもあるんですよ。

 

その結果、全ての友人達とナナのお見合いがうまくいかなかった悟は、北海道にいる叔母さんの家に帰り、ナナと一緒に過ごすことを決めます。

 

悟の叔母さんは、そのためにペット可のアパートに引っ越してくれたんです。

 

銀色のワゴンでフェリーに乗り、北海道を目指す旅が、ナナと悟の最期の旅となりました。

 

北海道で、ナナと悟は、悟の両親のお墓参りをします。

 

紫と黄色の花が見渡す限り咲きつくす原っぱで、2人だけの素晴らしい時を過ごします。

 

再び一緒に暮すことになった悟に、叔母さんはあることを謝ります。

 

かつて、両親が亡くなった悟を引き取った時、悟が実は両親と血がつながっていないことを打ち明けてしまったんです。

 

それを、叔母さんはずっと後悔していました。

 

しかし悟はやさしく笑います。

 

血のつながらない両親に大事に育てられた自分は幸せだって感じたって。

 

それを聞きながらナナがうなずいています。

 

僕が悟の猫にしてもらったのも、同じように幸せだよって。

 

ここまでのストーリーで、猫らしく、気まぐれで、ツンデレで、少し斜に構えていて、誇り高い様子の描写が多かったナナが、ここで、悟のことが大好きだと初めて書かれます。

 

ここから物語のラストまで、ナナの悟への思いが溢れます。

 

ここから先はもう、読者は泣きっぱなしです。

 

私達は涙を流しながら読むしかありません。

 

悟が最期に入院するとき、また旅に出ると思ったナナは、喜び勇んでゲージに入ります。

 

しかし、悟は、自分でゲージの扉を開けられるナナが出られないよう、扉を壁に押し付けて、ナナに別れをつげます。

 

「ナナはこれからもいい子にできるよな」

 

ナナはゲージに体当たりをし、全身の毛を逆立てて怒ります。

 

僕を置いていくなんて絶対に許さないぞ!

 

「いい子にしろ、バカ!」

 

バカはどっちだ、戻れよ!僕を連れていけ!

 

「置いていきたい訳ないだろう、大好きだよバカ」

 

僕だって大好きだ、ばかやろう!

 

ここのくだりを読んで、泣かない人はいないと思います。

 

ペットを飼っていて、自分がペットをおいて逝く時がきたら、と考えない人はいないと思います。

 

もしペットを飼っているのに涙を流さないで読める人とは友達になれません。

 

 

 

悟がいなくなった家で、悟の部屋に閉じこもっているナナに叔母さんが声をかけます。

 

お医者さんの許可をもらって、病院の庭でナナを悟に会わせることができるようになったんです。

 

ナナはある決意を秘めて、叔母さんと一緒にでかけます。

 

悟と感動の再会を果たした後、車に乗り込んだ瞬間、ナナはゲージの扉をあけて外に飛び出します。

 

ナナは悟のもとを離れないために、野良に戻る決意をしたんです。

 

そこからナナは、毎日悟が庭に出てきた時に、悟と一緒に過ごすようになりました。

 

晴れた日は毎日、ほんのわずかな時間悟に会い、悟の膝にのり、悟からフードやオヤツをもらいます。

 

ねえ、初めて会った時のようだね。

 

ナナが悟に話しかけます。

 

初めて会ったころ、野良だったナナは銀色のワゴンのそばで悟に会い、オヤツをもらっていたんですよね。

 

あの頃も僕はもう悟のことを好きだったんだけど、今はあの頃よりもずっと悟のことが好きなんだよ。

 

また、涙が溢れるシーンです。

 

いえ、ここまでもう泣きっぱなしなんですが、それでもさらに涙が溢れます。 

 

なお、健気でいじらしいナナのために、大勢の病院スタッフが、あちこちにフードを置いてくれるので、ナナは野良になっても、食べ物には困っていません。ご心配なく。

 

そして、とうとう最期の時が来ます。

 

悟の危篤の知らせを聞いた叔母さんが、吹雪の中かけつけます。

 

事態をわかっているナナが玄関に飛び出してきましたが、病院内に連れて行くわけにはいきません。

 

しかし叔母さんは、死を目前にした悟のベッドで、看護師さんに、猫に会わせたいと懇願します。

 

この時の看護師長さんが最高です。

 

有川浩の小説にしばしば登場する男前な人物です。

 

「そんなことを聞かないで下さい!」

 

と看護師長さんは叱責するんです。

 

「私達は聞かれたらダメだと答えるしかないんです!」

 

最高ですよね。

 

玄関まで全力で走った叔母さんの腕の中に、ナナが弾丸のように飛び込んできます。

 

ナナと悟は最期の瞬間にもう一度会えたんです。

 

ナナは悟を看取ることができたんです。

 

悟はナナに看取られて旅立つことができたんです。

 

 

悟が亡くなった後、ナナは夢の中で、紫と黄色い花が咲く原っぱで悟と再会します。

 

そして何年かたった後、ナナは夢でしか来れない原っぱにもうすぐ旅立とうかなと語ります。

 

ここで僕たちの旅のリポートは終わります。

 

それは新たな旅の始まりなんです。

 

 

本当に最高の小説ですよね?

 

もちろん、実際には、猫が人間のように考えることはできません。

 

でも、それを違和感なく、いかにも猫らしいと自然に感じさせてくれるのが、小説の力なんです。

 

ですから、旅猫リポートの魅力は、ペット好きの読者に限定されている訳じゃないんです。

 

小説の王道とも言える、小説の力、小説の奇跡にあふれた本なんです。

 

全ての人に心からお勧めできる最高の小説です。

 

 

最後に少し、有川浩の他の作品に触れさせて下さい。

 

「ストーリーセラー」という小説も、若くして亡くなる主人公の物語です。別々の中編2編から構成されています。

 

その後編(サイドB)でも、主人公夫妻が猫を飼っています。

 

猫が登場するのはごくわずかなんですが、猫への愛情が深いのがわかりますよ。

 

また、旅猫リポートの中で、すこしだけコロボックルについて述べてあります。

 

有川浩は、戦後の児童文学の傑作中の傑作、佐藤さとる著の「誰も知らない小さな国」で始まるコロボックルシリーズの続編、「誰もが知っている小さな国」を書いています。

 

佐藤さとる氏がが亡くなる前に公認しています。

 

こちらの本、「誰もが知っている小さな国」も、「誰も知らない小さな国」も大傑作ですよ。

 

…コロボックルは北海道の伝説の小人で、コロボックルシリーズを書いたのが佐藤さとるさんで、旅猫リポートで最期を北海道で過ごす主人公が悟。旅猫リポートの中にはコロボックルに関する記述も少しあって…有川浩さんらしいウィットですね

 

 

旅猫リポートを読み、先に旅立ったペットが愛する人間を待つ場所が虹の橋なら、先に旅立った人間が愛するペットを待つ場所は、紫と黄色の花が咲く原っぱなんだなと感じました。

 

紫と黄色の花が咲く原っぱで、悟はナナを待っています。

 

紫と黄色の花が咲く原っぱで、B様もチロを待っています。

 

C様も紫と黄色の花が咲く原っぱで、猫のお母さんとチビを待っています。

 

チョロの飼い主さんも、紫と黄色の花が咲く原っぱで待っています。

 

有川浩さん、素晴らしい物語と、素晴らしい表現をありがとうございました。

 

 

全ての読書好きの人に、全ての小説好きの人に、全ての猫好きの人に、全ての犬好きの人にも、そして人間を信じる人全てに、人間とペットの絆を信じる人全てに、心の底からお勧めしたい1冊、有川浩著「旅猫リポート」です。