仮定法現在とは何か?

 

by  SAKURAnoG

 

皆さん、こんにちは。

今回は、「英語の前置詞について(その4- WITH)」からのスピンアウト編として、仮定法現在について語りたいとおもいます。

 

1.     仮定法(Subjunctive Mood)とは何か?

仮定法は、一般的には「Subjunctive Mood」(「Mood」は「法」)を訳した「接続法」と呼ばれています。この呼び名は、その起源が従属節で使用され始めたことによるものです。学校の英文法では「仮定法」と習いますが、「仮定法」というのは「仮定」という表現が理解の妨げになるため、「接続法」などの用語の方がより適切なのですが、このコラムでは皆さんにおそらく耳慣れない「接続法」を避けて、「仮定法」で統一したいと思います。

このいわゆる「仮定法(Subjunctive Mood)」というのは仮定の概念だけではなく、もっと広い意味を表します。「叙想法」という用語を使う学者もおられます。

英語では「can」「may」「must」「could」「should」「would」などの「法助動詞」がこの「仮定法」(心で思い描く想念の表現)の中心的役割を果たしていますので、これらの助動詞の意味や用法を思い浮かべていただければ、「仮定法」の表す概念が、なんとなく実感できるのではないでしょうか。具体的には「願望(wish)」「祈り(pray)」「要求(demand)」「要請(request)」「許可(permission)」「可能性(possibility)」「条件(condition)」「譲歩(concession)」「勧奨(recommendation)」「奨励(encouragement)」「義務(obligation)」など、さらには法助動詞を使った仮定法過去には「婉曲表現」もあり、言ってみれば「直説法」以外のすべての表現が、法助動詞を含む「仮定法」で表されるのです。「仮定法」という用語が誤解を生みやすいという理由がなんとなくわかっていただけたかと思います。

今あげた概念を、法助動詞ではなく動詞単体で表わす「仮定法」特に「仮定法現在」は今では見る影もなく衰退していますが、このコラムで採り上げようとしているのは、この息絶え絶えの「仮定法(現在)」(笑)です。

英語には「直接法」「命令法」「仮定法」の3つの「法」があると言われています。この「法」というのは動詞の使われ方(語法)ではなく、語形(主に語尾変化=屈折)に応じて分類されています。他にも語形変化を要求するものに「態」や「相」、「時制」や「人称・数」といったものがありますが、これらは共存します。つまり、「3人称単数直説法現在」(He goes.)や「1人称単数仮定法過去」(If I were a bird)といったものがあるわけです。

 

2.仮定法は何を表すのか?

「法(Mood)」というのは、話し手の「心の想い」を表す方法、とでも言えばいいでしょうか。英語では「行きます(He goes.)」(直説法現在)、「行け!(Go!)」(命令法)、「行くこと[が重要だ] ([It is important that] he go.)」(仮定法現在。従属節で現れていることに留意してください)という感じです。

この「仮定法(現在)」を理解するには、「直説法(現在)」(いわゆる普通の文)と比べてみれば、わかると思います。

直説法の現在形は何を表す表現だったでしょうか? 

現在形が表す概念のキモは、「現在の事実や習慣」にあります。

(「英文法解説」改訂3版 §141 PP208-209 江川泰一郎 金子書房 1991)

その直説法以外の表現を仮定法が担っているのです。

例えば、古い英語では条件のif節では「仮定法現在」が使われていました。どうして仮定法が使われるのかというと、「もし・・・なら」という表現は現在の事実・現実を表わしているわけではないからです。まさに仮定の話なので「仮定法」を使うのです。つまり、事実と事実ではないことがら(想念)を表すのに、動詞の形を使い分けていたのですが、今ではif節では現在形(または法助動詞)が使われるようになってきたわけです。今でも使われる「if need be(必要があれば)」に仮定法現在の名残が見られます。

 

3. 主節に現れる仮定法現在

「仮定法現在」は「仮定法過去」と違って、かなわぬ願いを表現するのではなく、逆に、かなってほしい願望・祈願に対して使われていました。今では、特定の言い回しにしか、その姿を見ることができません。形は原形を取ります(3単現の「s」は付きません)。

・Long live the Queen! (前エリザベス女王時代の祈り・掛け声)

・God Save the King. (英国国歌のタイトル)

 

4.従属節に現れる仮定法現在

4.(1)名詞節に現れる仮定法現在

今では、

(a)提案・勧告・要求(ask, insist, propose, recommend, request, require, suggest)などを表わす動詞の「THAT節(名詞節)」

(b)必要・重要・妥当(necessary, crucial, desirable, essential, importantなど)を表わすIT―THAT構文の「THAT節(名詞節)(It is essential that ・・・」)

にその名残が見られます。

どちらも「かなってほしい願望」を表わしていると考えると、わかりやすいですよね。

この構文の動詞は、直説法ではなく「仮定法」なので、三単現の「S」は付きませんし、時制の一致の法則も受けません。

 

例文を「英文法解説」から引用します(イタリクス、下線は筆者)。

(引用)

(a)   The doctor advised that she remain in bed for a few more days.

(医者は彼女になお4,5日は寝ていなさいと言った)

(b)   It was imperative that he make a final decision.

(彼が最終的な決断をすることがどうしても必要であった)

(引用終わり)

(「英文法解説」改訂三版 §168. 仮定法現在―(2) 現代の英語で P250金子書房 1991)

なお、〈英〉ではこれらの構文では「should+動詞の原形」が使われることが多いです。

そして、(a)の場合、主節の動詞が名詞化されてもこれらの仮定法現在は、そのまま残ります。

(a1)The doctor’s advice that she remain in bed for a few more days was strictly observed.

(彼女はもう2,3日寝ていないといけないという医者のアドバイスは厳密に守られた)

 

4.(2)副詞節に現れる仮定法現在

昔は、「時」(~した時、する前)や「目的」(する/しないように)、「条件」(~すれば)、「譲歩」(~しようが/したとしても)を表わす副詞節に仮定法現在が使われていました。

今では上記の場合、ほとんど現在形もしくは法助動詞が使われますが、単体でかろうじて生き延びているのが、(c)目的、(e)条件、(f)譲歩における仮定法現在です。いずれも古風な表現で、現在形(もしくは法助動詞)を使うほうが一般的です。(d)時に関しては、すべて現在形が使われており、仮定法の影も形もありません。

(c)(目的)so that, in order that, lest

(d)(時)until, when, whenever, as soon as, before

(e)(条件)if

(f)(譲歩)whether, however, though

仮定法現在の例をあげましょう。

(引用)

(c)「目的:「Be careful lest it be stolen.

   (それが盗まれないように注意しなさい)

 ・ふつうshouldを用いlest it should be stolenとする」

(e)条件:「If that be so, we shall take action at once.

    (もしそうならば、直ちに行動に移ろう)

 ・現在ではふつう直説法現在(=if that is so, ・・・)で表わす。」

(f)譲歩:「Though that be true, we must not give up our plan.

    (たとえそれが事実でも、我々は計画を断念してはならない)

  ・現在ではふつう直説法または助動詞mayを用い、Though that is true,・・・/Though that may be true, ・・・とする。」

(引用終わり)(マスター英文法 §191仮定法現在〔A〕P417 中原道喜 聖文新社〈新訂増補〉第9刷 2002年)

 

5.仮定法現在と直説法現在

ここまでのところで、副詞節に現れる「現在形」(古風な表現を除く)と名詞節に現れる「仮定法現在」を述べてきましたが、この2つをごっちゃにしないように注意しましょう。

繰り返しになりますが、

(1)  特定の動詞(recommendなど)や叙述的形容詞(it is necessaryなど)の後に続く名詞節における動詞は、直説法ではなく「仮定法」なので、三単現の「S」は付きませんし、時制の一致の法則も受けません。

(2)  一方、「時や条件、譲歩、目的を表わす副詞節」では、現在形(または法助動詞)を使います。こちらは、現在形の場合は「三単現のS」が付きます(上記のような古風表現を除く)。

そして、「時や条件、譲歩、目的を表わす副詞節」で重要なのが、「未来を表わす場合でも現在形」を用いる(=単純未来の「will」は使わない)」ということです。

未来を表わす例を、「英文法解説」の例文を見てみましょう。(〔〕、イタリクス、下線は筆者)

(引用)

〔時〕You’ll be sick when the ship begins rolling heavily.

(船が激しく揺れ始めると, 君は酔ってしまうだろう)

〔条件〕What will happen if my parachute doesn’t open?

(パラシュートが開かなかったら, 私はどうなるのですか)

(引用終わり)

〔「英文法解説」改訂三版 §143. 未来を表す現在時制(1) 時を表す副詞節 (2) 条件を表す副詞節 P211-212金子書房 1991〕

 

ここでは「副詞節」という言葉に留意してください。つまり、同じシチュエーションでも〔4.(1)で例示した特殊な場合における名詞節ではなく〕普通の「名詞節」だったら未来を表す「will」が登場し、「副詞節」だったら登場しない(現在形)ということです。

(引用)

Tell me when you’ll be ready. (いつ支度ができるのか教えてください)(筆者注―「when~」は、動詞「Tell」の目的語なので「名詞節」)

Cf. Tell me when you’re ready. (支度ができたら教えてください)〈副詞節〉

(引用終わり)

〔「英文法解説」改訂三版 同上P212金子書房 1991〕

 

【例外】

上で登場する(副詞節では現れない)「will」は「単純未来のwill」であることに留意してください。つまり、「意思などを表すwill」などwillが単純未来以外の表現の場合、副詞節であっても、「will」は喜んで登場してきます。(〔〕、イタリクス、下線は筆者)

(引用)

If he won’t cooperate, we’ll have to take more drastic measures.

(彼がどうしても協力しないのなら, もっと思い切った手を打つ必要がある)

(引用おわり)

(「英文法解説」改訂三版 同上P212金子書房 1991)

 

これにもまた「例外の例外」があるのですが、ここにハマってしまうとわけがわからなくなってしまうので、解説は避けておきたいと思います。

 

どうでしたでしょうか? なかなか日の当たらない「仮定法現在」にスポットをあててみました。この用法も消えてゆく運命にあるのでしょうか? 過渡期感が半端ない「仮定法現在」ですが、生きているうちはかわいがってあげましょう。