YOUR NAME English Ver.解説
Original Lyrics KOUDAI IWATSUBO
English Lyrics Konnie Aoki
Music KOUDAI IWATSUBO, Kuwagata Fukino
Song Little Glee Monster
Do not unwind just yet
Any means, do not just fade away
As you sense, try to then bring about a bright day
Inside this darkness, a blossom of light blooms
The eyes meet, so deep
Voices, that sway, so confused
So what’s right?
A bitter past it was, blurry
And even though
Attempts have piled, so believe in that way
To hope, where, your ears should tend to
In how you follow your wish,
the vows there’s more, really
Surely anything worth to love
Indeed, in you there all along
Your name I should call, oh if I yell it more for you
I could just voice
And maybe that, just all in all, ,comes forth, so naturally
My story
(The Writer entirely owes the lyrics cited here to "LittleGleeMonster YT", the official YouTube channel)
皆さん、こんにちは。 今日は、Little Glee Monsterの「Your Name English Ver.」について、解説していきたいと思います。 上の歌詞を読んで、どう感じられたでしょうか? 難しい?よくわからない?
多分、英語の分かる人ほど難解だと感じられると思います。
○To hopeのあとのwhereって、どんな意味?
○the vows there’s more って、どんな意味? どうして語順がバラバラなの?
○あちこちにコンマがあるのは、どうして?
○全体的に意味がわからないんですけど……
こんな疑問に、お答えしていきます。
その前に、どういう経緯でこのような歌詞が生まれたのか、YOASOBIさんの「夜に駆ける」の英訳についてのJapan Timesのインタビュー記事を引用して、ご本人の口から語っていただきましょう。
「一語一語の正確な訳よりも音合わせ(押韻)を大事にしたので、みんな『何じゃ、こりゃあ!』って思うんじゃないかなと思ったけど、いまのところ反応はすごく好評ですね。」
とアオキは語る。 多くの人が、サビの部分などで英詞がまるで日本語のように聞こえることに気がついた。
「もし、僕が原典を忠実に訳さないといけないプロの翻訳者だったら、英訳はこんなふうにはならなかったと思います。」
「オリジナル(日本語)で好評だった語感やリズムを無視して、グーグル翻訳みたいに訳したら、ファンはがっかりするだろうなあ、と思ったので、音合わせ(押韻)に全感覚を集中させました。」とアオキは言う。
しかし同時に、日本語に響きの似た英語をただ闇雲に並べただけではダメで、歌詞はその曲が描く世界も表現しなくてはいけないということを、アオキはわかっていた。
そこで、彼は歌の世界観の中に「飛び込む」ことにした。
「例えば、日本語の『ように』をそのまま訳すと「like」のようになるんですが、これじゃあ全く音が合わない(押韻しない)じゃないですか。」そしてアオキは、「ように」と押韻する言葉として「you’re on me」を持ってきた。(訳者注:YOASOBIさんの「夜に駆ける」の英詞のことを言っています)
「ストーリーの中にズッポリ浸かっていると、『You’re on me』というのが、とてもしっくりきたんですね。意味は正確じゃないかもしれないけれど、この言葉は主人公が見たり感じたりしたことを、よく表わしているように思ったんです。」とアオキは語る。
(2021年8月14日Japan Times ” Yoasobi’s breakout hit song is just as catchy in English”より抜粋。文: Tomohiro Osaki 原文は英文。筆者訳)
お分かりいただけたと思います。 そうです。この歌詞は「音合わせ」なんです。しかし、上のインタビューにもあったように、曲の世界観を見失っていないところが、なんともすごいところだと思います。例えば、「if I yell it more for you」は、[君の名を呼ぶこと]という曲のストーリーを保持したまま、「いっかいでも おおく」と「押韻」しています。 また、「In how you follow your wish」なんかも、意味を取りかねた人がいたんじゃないかと思いますが、ここは「ねがうことより」と押韻しています。この2箇所はフレーズ全体が「音合わせ」になっており、会心の出来ではないでしょうか。
ただし、フレーズ同士のつながりは犠牲になっている箇所もあるため、そういったところは、ちょっと意味がわかりにくくなっています。 実際、あるNATIVEの方に見せたところ、「意味わかんねー」(笑)と言っていました。
このような事情を理解した上で、この歌詞を読み返すと、上の疑問がすっと解けていくのが、感じ取れると思います。 以下、順番に解説したいと思います。あちこちで押韻しているので、一つ一つ取り上げるときりがないので、主なものだけを解説していきます。
詳しい押韻の解説はこちらをどうぞ⇓
☆「unwind」
「気を緩める、くつろぐ」
☆「Any means」
「(否定文で)by any means=by no means」「決して~ではない」
☆「As you sense, try to then bring about a bright day」
「to then bring」普通thenは不定詞のこの位置を占めることは、まずありません。居るせ(sense)かい(try)で(then)と押韻させたかったんだと思われます。「bright day」が「みらいへ」と押韻しています。
☆「The eyes meet, so deep」
「meet, so deep」が「ひとみ」と押韻しています。「meet」のあとのコンマは、多分ですが「Eyes meet deep」とは言わないので、「meet」で意味を一回切って、「it is )so deep)」みたいな感じにしたかったんだと思われます。
この歌詞に現れるコンマは、主に3つの機能があって、一つは文法的な正書法(orthography)もしくは慣用によるもの(「attempts have failed,」など)、もう一つは本件のような意味の句切れを明示するためのもの(「the vows there’s more,」など)、そして3つ目が発音のリクエストです。つまり、ここを強く発音してほしいというところの前に、コンマをおいています。もちろんこれはKonnie Aokiさんの「発明」で、英語本来の使い方ではありません。(「To hope, where,」など)これは、このあとの語句説明でもう一度触れます。
☆「Voices, that sway, so confused」
「sway, so confused」が「(ゆ)れうごく」と押韻しています。
☆「A bitter past it was, blurry」
ここは、オリジナルの日本語にはない歌詞なので、Konnieさんのお気に入りの世界観かな、と思います。「it was」の「was」が「さけぶひびは」の「は」と押韻しています。別の場所にも書いたのですが、意味としては「A bitter past it was,( although being)blurry (now)」みたいに解釈しました(分詞構文です)。 なので、「辛(つら)かった回顧(むかし)の記憶 今は朧(おぼろ)で」と訳しています(別の和訳のページご参照)。
☆「Attempts have piled, so believe in that way」
「Attempts have piled」とはあまり言わないと思うのですが、ここは「piled」が「(重ね)たい」「so believe in that way」が「(おも)いうかべ」と押韻しています。
☆「To hope, where, your ears should tend to」
「To hope, where, 」が「(き)ぼうへ」、「should tend to」が「すます」と押韻しています。ここで、「, where, 」がちょっと気になると思います。後ろのコンマは文法的には必要ないものです。おそらくは、小休止を置いて強めに読んでほしいというリクエストなのかと思います。日本語の「へ」と押韻させるために。
それでは、意味はどうなんでしょうか。「To hope」ですが、文頭にこういう形で出てくると、どうしても不定詞(望むこと)と取りたくなるのですが、ここは前出の「that way」に続く名詞で「that way to hope」(希望へ続く道)という意味になります。「believe in that way」で、その道を信じて、そしてその道とは、耳が自然と向かう方向、つまり「, where」は前行の「that way」を受けて「耳が向かう方にある道、その道を信じて」ということだと思います。(「should」は音合わせのための言葉なので、意味は気にしないでいいと思います)。「where」は、できれば、「which」にしたいところですが、それだと「音合わせ」ができないので。
実は、ここには、音合わせだけじゃない、ものすごい技術が使われているのですが、これは一番最後まで読んでいただければわかると思います。英訳あるある、というか、英訳をやろうとした方が、必ず一度は歯がゆい思いをしたであろう、あのジレンマが見事に解決されているのです。
☆「In how you follow your wish」
最初にも述べましたが、ここはフレーズ全体で「ちかうことより」と押韻しています。作者会心の出来ではないでしょうか。しかも楽曲の世界観と合っています。意味は「願いを叶えていく中で」くらいの感じでいいと思います。意味は、このフレーズ単独で完結しており、前後の文章とは完全には疎通していません。
☆「the vows there’s more, really Surely anything worth to love」
答えを先に書くと、ここは「there’s anything(= something)more worth to love (than) the vows」(誓うことよりもっと愛すべき価値のあるものがある)というところを、日本語に合わせて語順をバラバラにしたものです。「worth to love」が「ことは」と押韻しています。
☆「Indeed, in you there all along」
「there all along」が「(ある)のだろう」と押韻。意味は、「(もっと価値のあるものが)まさに君の中にずっと一緒にある」といった感じでしょうか。
☆「if I yell it more for you」
ここも、「いっかいでも おおく」とフレーズ全体で押韻していますね。原歌詞の世界観を受け継ぎながら押韻させる。大変な技術だと思います。意味は「only if I could yell it more for you」くらいの感じで、「もっと君の名を呼べればいいんだけど」
☆And maybe that, just all in all, ,comes forth, so naturally
「just all in all[(く)らいの]comes forth[こと], so[し(れ)] naturally[ない]
「that」は、おそらく前の「I could just voice(声に出すことくらい)」を受けていると思われます。「all in all」は、大体のところ、とか、やっぱり、とかいった意味です。「in all (全体として)」を「all」で強調した言葉です。「声に出して呼ぶこと、それが多分自然に出てくるんだろう」といった感じだと思います。音合わせが目的なので、文章の意味は、個々の単語と世界観から、音合わせのために持ってきた単語の意味を割り引いて考えて良いと思います。
全文の和訳を読みたい方は、こちらから⇓
そして最後になりましたが、前に述べた「音合わせだけじゃない、すごい技術」とは、なんでしょうか?
上の「詳しい押韻の解説」で引用したURLをもう一度掲示します。
これを見ていただくと、押韻箇所が「赤」で示してある他に、数箇所「青」になっているところがあることに気づかれると思います。 次の4箇所です。
☆その瞳 声 揺れ動く
The eyes meet, so deep Voices, that sway, so confused
☆希望へ 耳澄ます
To hope, where, your ears should tend to
☆誓うことより
The vows there’s more
☆その名をきっと
Your name I should call
声に出して歌っていただけると、よく分かるとおもいますが、原文の日本語のピッタリその場所に、同じ意味の英語が充てられているんですね。これが実は、すごいことなんですね。歌詞において日本語とピッタリの位置に同じ意味の英語を持ってくるというのは、至難の技なんです。しかも、最初の「その瞳」などは、「eyes」が「その」の「の」、「meet, so deep」が「ひとみ」と押韻しています。たった2語の中に、言葉の意味とサウンドの響きを重ねている。
「希望へ」も、「hope」を使って「(き)hope(ぼう),where,(へ)」と一石二鳥というか、こちらは1音節の中で意味と響きの一致をやってのけている。
歌詞を訳してみると分かるんですが、日本語と英語で語順が真逆なので、日本語の位置に同じ英語を持ってくると、あとの言葉が続かないということが起きるんです。逆に、意味の通る英語にしようとすると、日本語でグッと盛り上げたいところに平凡な語が来てしまう、という大変もどかしいことが起きるんですね。
わかりやすいように、英語⇒日本語の場合を考えてみましょう。次の歌詞は、ABBAの「Dancing Queen」からの一節です(和訳:筆者)。
”You're in the mood for a dance
君は 踊りたい気分
And when you get the chance
その機会があれば”
このフレーズは、「dance(踊り)」と「chance(機会)」がキーワードとなっています。そこで、この「dance」と「chance」の位置(文末)に「踊り」と「機会」をおいて、全文を意味の通る日本語に訳してください。出来ますか? なかなか難しいですよね。文を倒置するしかないんだけど、最初から最後までそれで通すわけにもいきません。
これは、異なる言語体系の同じ意味の言葉を同じ位置に重ねようという企てそのものにすごく勇気のいることで、その試み自体が、称賛に値することだと思います。普通はやってみようとはハナから思わないレベルのハードルの高さだと思います。
Konnieさんはそれを実現するために、「Your name(that)I should call」のような体言止め(あるいは文の倒置)にしたり、頭に出てくる「To hope(希望へ)」を活かすために、原文にはない「believe in that way」というフレーズを考案したり、といった新機軸を考え出しているのです。
最後に、再び前出のJapan Timesから、Konnieさんの言葉を引用させていただいて、結びとしたいと思います。
「観客の半分が日本人で、あと半分が(日本語を知らないため)英語版を聞いている人たちだったとして、サビの‘Sawagashii hibi ni / Saw what got seen hid beneath’を一緒に合唱して、一体感を共有する、それってすごくありません?」
“If half the audience are used to listening to the Japanese version and another half to the English version, they can sing along in the main chorus and say, ‘Sawagashii hibi ni / Saw what got seen hid beneath’ together — and share a sense of oneness,” he says. “I think that would be awesome.”
(2021年8月14日Japan Times ” Yoasobi’s breakout hit song is just as catchy in English”より。 文: Tomohiro Osaki 原文英文。和文は筆者訳)