動名詞と現在分詞の「もつれ」とは? ( 動名詞・分詞(ING)シリーズその5 )
動名詞と現在分詞の「もつれ」とは?( 動名詞・分詞(ING)シリーズその5 )by SAKURAnoG皆さん、こんにちは。今回は「動名詞・分詞(ING)シリーズその5」として「動名詞と現在分詞のもつれ」現象について、見ていきたいと思います。「もつれ」というのは、動名詞と現在分詞を区別する必要はないという議論に直接つながる現象で、両者がお互いに絡み合って、いったいどっちがどっちかわからなくなることを言います。これは、動名詞と現在分詞が同形だからこそ惹起される「無意識の意識のもつれ(筆者造語)」で、筆者が知る限り他のヨーロッパ言語には見られない英語特有の現象です。特に、動名詞が一瞬にして現在分詞に早変わりするシーンは必見です。それでは、その実態を見ていきましょう。目次1.動名詞と現在分詞の「もつれ」現象について~動名詞の華麗なる変身2.動名詞と現在分詞の生い立ち1.動名詞と現在分詞の「もつれ」現象について~動名詞の華麗なる変身動名詞は一回きりの動作(~すること)、現在分詞は進行中の動作(~している)というのが一般的な理解ですが、その固定観念に捉われていると両者のベールに隠された真実が見えてきません。このもつれは、動名詞と現在分詞が同じ語尾を持つという英語特有の現象から生じたものですが、遡れば進行形の成立にもかかわる興味深い現象です。「もつれ」について、ひとつひとつ見ていきましょう。次の例文を見てください。A. He went fishing.B. He went on fishing. (古)C. We killed time playing cards.D. We killed time by playing cards. (やや古)E. Arriving at the station, he rushed for the ticket office. (駅に着くと)F. On arriving at the station, he rushed for the ticket office. (駅に着くや否や)AとB、CとDは同じ意味です。EとFも若干のニュアンスの違いを除けば、言っている内容は同じです。ここで、A、C、Eは現在分詞、B、D、Fは(前置詞が付いているので)動名詞です。どうして品詞が違うのに(ほぼ)同じ意味になるのでしょうか? それは見てお分かりのようにA、Cの現在分詞の起源は前置詞の抜け落ちた動名詞で、もともと一回きりの動作そのものを表していたからです。そしてEについては、もともと現在分詞は動詞や文を前置詞なしで副詞的に修飾する機能を持っており、(進行表現とは無関係で)副詞的に用いられていたという経緯があるからです。(現在分詞の副詞的表現の例―古英語)He came riding.(彼は馬に乗って来た:he com ridende)The king sleeping, the Danes came.(王が眠っている間にデーン人たちがやってきた:þām cyninge slæpende cōmon þā Deniscan. [Anglo-Saxon Chronicle])次の例では、逆に動名詞が分詞のように動作の進行を表しています。GからJは、動名詞です。こちらはどうでしょうか?G. He set the machine to running. (やや古。[直訳]機械を動いている状態にセットした)H. He is on hunting. (やや古。 彼は狩りをしている最中だ)I. I found him at reading.(16世紀。彼は読書をしているところだった)J. She fancied the bull was a-chasing of her. (Curme 50 4 c dd P494 引用元:Mrs. Alexander, For His Sake, I, Ch. Ⅲ) (彼女はその牛が自分を追いかけていると思った)(1891年ごろ)いずれも、古風ながら現在分詞顔負けで動作の進行を表現していますね。つまり、H~Jは古くは動名詞構文だったものが、前置詞(それぞれ「on」「at」「a-」)が取れ、現在分詞として今の形である進行形や知覚動詞構文の補語となったと考えられます。特にJの表現は、見てお分かりのように、現在進行形のもととなった表現です。実際に声を出して読んでみると、「a-」が簡単に抜け落ちそうだということが実感できると思います。Curme (50 4 c dd P494)にその動名詞構文が現在分詞進行形に移行する途中経過を示す好事例がありますので、併せてご紹介します。「as she was [in] writing of it (Shakespeare, As You Like It, Ⅳ,ⅲ,10)」(1600年ごろ)カッコ[ ] はCurmeの補足で、前置詞が抜け落ちたことを示しています。ここで、「writing」は「of it」という形で目的語を取っているので、現在分詞ではなく名詞(筆者注:動詞的名詞=Verbal Nounまたは動名詞=Gerund)であることは明白だ、と彼は言います。K. He went fishing.「fishing」は現在分詞です。一般的には動詞「went」に掛かって副詞的に用いられているというように説明されます。筆者は「went」は「繋辞(Copula)」で「fishing」は主格補語の現在分詞(形容詞)、文型は(S+V+C)と考えます。その理由は、A.は文構造が「He was fishing」(S+V+C)と同じで、文の趣意は「魚釣り」という「fishing」にあり、「went」は叙述の本体ではなく「魚釣り」という動作に「行く」という「色を付けている」だけだからです。もともとこの表現は、He went on fishing. または He went a-finshing. と言っていました。a-はonが変化したものです。つまり「fishing」は(前置詞の目的語だから)動名詞だったのです。しかし今では「a-」が取れてしまい、A. の「fishing」は現在分詞だと考えられています。このように、「on」や「a-」が取れた瞬間に、「-ing」は「動名詞」から「現在分詞」に一瞬で変化するというのが、文法上の考え方になります。どんなに遠く離れていても一瞬で相手に影響を及ぼすところが、物理学の「量子もつれ」みたいだな、と思いました前置詞+動名詞で前置詞が脱落して現在分詞になり、副詞的に用いられた例をいくつかご紹介します(一部再掲)。例文はかっこの中の前置詞は、あってもなくても成立しますが、現在ではかっこがないほうがよく使われるようです。(引用)「・He won’t be long (in) making up his mind.(すぐに決心するだろう)・While waiting for the next ferry, we killed time (by) playing cards.(次のフェリーを待つ間、トランプをして時間をつぶした)・We’re having difficulties (in) recruiting well-qualified staff.(十分に資格のある職員を募集するのに悪戦苦闘しています)」(引用おわり)(英文法解説 §240 B P361)いずれも、一見分詞構文に似ていますが、分詞構文ではありません。主節の動詞を修飾する(手段・方法を付加する)副詞的修飾語になります。ここまで来ると、面白い現象が見えてきます。(再掲)L. On arriving at the station, he rushed for the ticket office.(駅に着くとすぐに彼は切符売り場へ急いだ)M. Arriving at the station, he rushed for the ticket office.(駅に着くと彼は切符売り場へ急いだ)LもMもほとんど意味は変わりません。しかし、Lの「arriving」は前置詞onの目的語なので、動名詞です。一方、Mの方はご存じ分詞構文なので現在分詞です。Kの項で述べたように、onが取れた瞬間に動名詞が現在分詞に早変わりするのです。逆にMに「On」が付加されてLになったとも考えられます。そうすると、現在分詞が一瞬で動名詞になってしまった、ということになります。どうして分詞構文に、現在分詞と相いれない「前置詞」が付くのでしょうか? これは、分詞構文に前置詞が付いたのではなく、LとMは別々に形成されたものだからです。学校では、LもMと同じ分詞構文の仲間だと教えますが、筆者が知るかぎりLとMに時系列的なつながりはありません。Mは分詞構文として比較的古くからある形であり、Lは前置詞「On」+「動名詞」で構成された副詞句(⇒L2)です。つまり、LからMができた(あるいはその逆)といった関係ではありません。言ってみれば、Lは動名詞構文、Mは分詞構文というわけです。Native Speaker(英語を母国語とする人たち)は文法を意識しながら話をしているわけではないので、その脳内では「arriving」はひとつの「ing形」であり、時には名詞的(動名詞)だったり、時には形容詞的(現在分詞)だったりと、文脈によってその用法と意味を使い分ける単語なわけです。これが「ing形」を区別する必要はないといった議論とも結びついていくわけですがそれはさておき、一般的にLとMは別物として扱われます。次の文で前置詞「on」の後には純粋な名詞がくる場合もあれば、L2のように動名詞がくる場合もあり、この2つの間に大きな意味上の差はありません。これがL.動名詞構文の成り立ちです。L 1.On arrival at the office, he knocked on the door.L 2. On arriving at the office, he knocked on the door.(事務所につくと、彼はドアをノックした)([Genius【ON】5d)P1359 ]より一部筆者改変)しかしながら、前に戻ってLとM2つの文を並べてみたときに、Native Speakerの感覚では、この2つは「On」があるかないかの違いだけで、「On~(~するや否や)」が付加する意味以外に違いはない、というのが実態だと思われます。(再掲)L. On arriving at the station, he rushed for the ticket office.(駅に着くとすぐに彼は切符売り場へ急いだ)M. Arriving at the station, he rushed for the ticket office.(駅に着くと彼は切符売り場へ急いだ)そのような中で、この2文を記述的に(共時的に見たままを)比較すれば、Lの「On」がとれてMになった、あるいはその逆、という解釈が成り立つことになります。これが、冒頭でも述べた「無意識の意識のもつれ」です。なぜ、こういったもつれ現象が起こるのでしょうか? それは、前置詞や接続詞なしで、ポンと動詞や文の横に置いた(並置※)だけで副詞的な働きをする現在分詞の特性(分詞構文の形成など)が関係しています。つまり、現在分詞と動名詞が同形という状況で、「現在分詞=前置詞+動名詞」(「公式A」)が成り立つことから引き起こされた事象ということができるでしょう。公式Aで前置詞が抜け落ちたために「現在分詞=動名詞」となり、外見上区別がつかなくなるという現象が起きるわけです。前置詞の抜け落ちについては、冒頭の例文A~Dで見てきた通りです。すると、本来L.は、前置詞が抜け落ちなくても抜け落ちた後でも「arriving」という語は動名詞なはずです。しかし、現在分詞と同形であることから動名詞が現在分詞化したという解釈(gerund-participle merger=動名詞の分詞化)になり、最後には、Mは前置詞が取れた動名詞構文という解釈ではなく、現在分詞による分詞構文だということになったわけです。この「動名詞と現在分詞のもつれ」の問題を深掘りしていくと、動名詞の別の顔が見えてきます。「be+ing」いわゆる進行形の成立にも、このもつれ現象がかかわっているというのです。※「並置」については、筆者ブログ「同格とは何か」をご参照。それでは、少し歴史を振り返って動名詞と現在分詞の生い立ちから見ていきましょう。2.動名詞と現在分詞の生い立ち動名詞と現在分詞がどのように関わりあいながら発展してきたかを見ていくと、両者は形が同じであるため、お互いに影響を与えつつ、現在の形に収れんしていったことがわかります。古くは、古英語の時代(~1100年ごろ)、動名詞はまだ現れておらず「(-unge)」「-inge」などの語尾を持つVerbal Noun(動詞的名詞)というものがありました。もちろん名詞として使用されていました。「Hē wæs on huntunge.」(彼は猟の最中だった。彼は猟に出かけていた)中英語初期になってくると、これまでの「Hē was on huntunge/-inge」から「He was a-huntinge.」へと音韻変化を遂げてきます。ただ、進行形というより「狩りの最中だ」といった状況描写の表現でした。一方現在分詞は「-ende」などの語尾を持ち「slǣpende mann(=sleeping man)」のように形容詞として使われていました。中英語初期(1150-1350頃)には、動名詞の影響を受けて、語尾が「-ende」から「inge/ynge」に変化します。Þe mon was slēpinge. (The man was sleeping.)「be動詞」+「現在分詞」という構造ですが、使用頻度は低く、進行表現というよりも「眠っている状態である」(S+V+CのC=補語)という意味合いでした。そして、次第に両者は互いに影響をあたえながら、形態的な統合を果たしていきます。Chaucerの時代(14世紀後半)になると、現在分詞は進行中の動作をあらわすようになり、数も多く使われるようになります。He was walkynge in the gardyn. (He was walking in the garden)一方、動名詞はというと、「be a-hunting (<be on hunting)」の形が盛んに使われるようになります。下記例文のように、こちらも動作の進行を表現しています。N. They were a-dancing all night.(They were dancing all night.)近代英語初期にもShakespeare(1590年代)の作品に「He is a-knocking at the gate.(Macbeth)」などこの形が見て取れます。17世紀にはbe a-huntingとbe huntingの差が意味的にほとんどなくなり、動名詞表現、特に接頭辞「a-」が存在意義をなくすこととなります。そして、18世紀にかけて、動名詞表現「a-動名詞」は、現在分詞と語尾が同じことから「-a<on」が消失し、従来あった現在分詞の構文に吸収されていきます。このようにして、現代の進行形である「be+ing」形が成立しました。この動名詞表現から「-a<on」が消失して現在分詞と区別できなくなったという現象は、さきに挙げた文章でも見られます。L. On arriving at the station, he rushed for the ticket office.で、「On」がついた構文は動名詞構文ですが、ないものは分詞構文として扱われます。ここで歴史的な発展を考慮しない立場で2つの文を比べると、「On」がとれた瞬間に動名詞が現在分詞に変化する、という解釈が成立します。L.の「On」が取れてM.になった(又はその逆)ということを否定できない状況が生まれたわけです。動名詞が、一回きりの動作(左記L.)だけでなく、左記Nのように、a+ingの形で現在分詞的な進行の意味合いを持つようになったからこその芸当とも言えます。このように現在分詞と動名詞は、その意味において、かなり混用されていたということが言えるようなのです。この「a-動名詞」は、地方の方言にはその後も長く残ったことから、標準語(ロンドン方言)から「駆逐された」という考え方もあります。ここまで読んでいただきありがとうございました。次回は、動名詞・分詞(ING)シリーズその6として「完了分詞は何者か?~どうして現在完了に過去分詞が出てくるのか?」について語っていきたいと思います。【出典】「Curme」:George O. Curme「Syntax」, Maruzen Asian Edition昭和34年9月, [Original:D. C. Heath AND COMPANY, BOSTON 1931]「Quirk et al.「CGEL」」:Randolph Quirk et al.「A Comprehensive Grammar of the English Language」, Pearson Education Ltd. UK 1985「英文法解説」英文法解説 改訂3版 江川泰一郎 金子書房 1991