英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/2024 今年2月に上演された「マノン」を見てきました。平日昼間の映画館で、小さいスクリーンとはいえほぼ満席でした。

 

ナタリア・オシポワのマノン、リース・クラークのデ・グリュー、アレクサンダー・キャンベルのレスコー、マヤラ・マグリのレスコーの愛人、ギャリー・デイヴィスのムッシュG.M.というキャスト。

 

オシポワさんについては、多少太目になろうともバレエへの姿勢、どこでなにがあっても踊れてしまうテクニック、でずっと見ていきたいプリマと思っていたのですが、うーん、今度のマノンはさすがにちょっとどうかなと。やっぱり、ニンにある役かどうかは気になります。舞台で客席から見たらきっと納得できたのかも、スクリーンのアップで見ると、なぜか大阪弁が聞こえてくるマノンでして、困ってしまいました。踊り方もマクミランらしい脱力の瞬間がほとんど無くて、目のつまった動きに違和感がありました。

 

マノンはやっぱり、美貌の物語だと思っていまして、ある種の美しい女性って、逢った男性をうろたえさせるというか、理性をふっとばす現象を起こすんですよね。この作品ではマノンを目にした男性が次々にトンデモ行動をとっていくわけですが、自分の中ではそういう説明をつけて見ています。そんな女性をどう演じるのかはやり方も色々で、そういうのを楽しみに見ているのですが、オシポワさんのはちょっと違ったかなー。わざとらしくてもいいから、そういう方向にチャレンジしてほしかったかも。

 

リース・クラークさんはとても美しくて、ルパート・エヴェレットの若いころみたいでした。背が高くて素敵だったのですが、マノンとも兄レスコーとも背がつりあわなくてしなくていい苦労があったかも。マノンとのパ・ド・ドゥでいち、にのさん、とタイミングを合わせているように見えてしまったのが残念でした。

 

アレクサンダー・キャンベルさんのレスコーは、目はしが利いてつねに頭を回転させながら、手をうっていく感じと、悪党ぽいニヒルさが素敵でした。踊りは上に伸びないで、地面に着実にワザを紡いでいくのがとてもそれらしかったです。このマノンの公演期間で引退だったそうです、こういう輝き方が映画で見られてよかったです。相手のマヤラ・マグリさんも目が離せないきめ細かいお芝居だし、衣装の着こなしがいいですよね、立ち姿がイキでした。

 

クーン・ケッセルズ指揮のロイヤル・オペラハウス管弦楽団。先日のパリ・オペラ座の来日公演で、ピエール・デュムソーが東京シティ・フィルでマノンを振ったのですが、このときのジュール・マスネがなるほどなフランス音楽らしい響きになっていたのが印象に残りました。今回は映画で聞くものなので、一概には言えないのですが、がんがん弾きます、感があって残念。ケッセルズさん、来日公演のロミオとジュリエットでも全然プロコフィエフじゃなかったし、バレエ職人的に音楽キザミますタイプなのでしょうか。グローバル化の現代なので、音楽のお国ぶりにこだわるのが間違っているのかもですが。

 

マノンとレスコーとムッシュG.M.のトロワ、娼舘にあらわれたマノンと男性たちのずっとリフトな踊り、こういうところの表現が独自で、動きの新鮮さも、語り口も、バレエとしてこれをしのぐものってなかなか無いのかも。ドラマのある全幕バレエとして、マクミラン作品の絶対感はますます高くなっていそう、「うたかたの恋」も、シュツットガルトもパリ・オペラ座も、最近になってレパートリーに入れていて、結局これといった全幕作品はどこでも作れていないのだなあという感をあらたにしたのでした。

 

新国、マノンよりうたかたの恋やってみないかなあ。エリザベートネタで強調したらお客来ますよ…。