日本バレエ協会の春の定例公演は、今年はアンナ=マリー・ホームズ版「パキータ」全幕でした。3回公演のラスト、米沢唯さん、中家正博さん、高橋真之さんのキャストで見ました。

 

ピエール・ラコット版の、パリ・オペラ座の全幕「パキータ」は、来日公演があったのに見ていなくて、映像で見たらあまり面白くなさそうかもでした。それはラコットだからつまらなかったとも言えるのかも、アンナ=マリー・ホームズ版のこんどの舞台、容赦ないざっくり展開で、テンポがよくて楽しかったです。

 

身分違いでかなわない、ロマの娘とフランス士官の恋、ですがロマの娘は、昔さらわれた伯爵の赤ちゃんでした、だから貴族でしたおめでとう、というお話でした。パキータに思いを寄せるロマの首領イニゴと、フランス士官リュシアンが気に入らない町長ドン・ロペスが、ふたりしてリュシアン殺害をはかるものの、パキータの機転で難を逃れるというシーンがありまして、楽しくおバカなドタバタでした。ホームズ版はそんなオペラ・ブッファな雰囲気がうまく出てました。

 

パキータのグラン・パでときどき入るパ・ド・トロワは1幕に登場して、首領イニゴと女性4人の踊りになっていました。全幕で見るとこの位置に入っているのが似合う踊りで、なるほどでした。この振付もロシアに残っていたのでしょうね、初めて見たのは、何度も言っているヴィノグラードフ時代のマリインスキーの映像でしたが、今や発表会でも定番になりましたよね。

 

イニゴの高橋真之さんは、最近NBAバレエ団を退団されたばかり。イニゴ役はマチネでは二山治雄さんで、小柄でキレのあるタイプで揃えたのでしょうか、高橋さんはテクニック抜群で盛り上がっていました。やりすぎずひっこみすぎないお芝居もほどがよかったです。

 

恋敵リュシアンは中家正博さんで、まんまと陰謀にひっかかりそうなキャラクターがばっちりでした。危険な殺害計画!の現場も、パキータの言う通りにしてたら大丈夫だった、というあまり頼りにならない男、ですが剣さばきはかっこよかったです。あと、踊りが少なかったでした。終幕のいつものパキータのヴァリエーションまで、ソロがないです。各幕でのサポートは見事でしたが、踊り的にはイニゴのほうが見どころが多いかも。

 

終幕でめでたし、になって、結婚式が始まるときに登場したのが、こどもマズルカで、そういえばこれパキータのだった、こういう使われ方をする踊りだったのかーと、そこだけで嬉しさ倍増でした。

 

 

こどもマズルカ、初めて見たのは、ソ連崩壊間もなく、コヴェント・ガーデンで行われたガラの映像で、小さくてもワガノワな、なんともいえない角度のよさや美少女のりりしさにすっかり魅了されました。まさか日本で、全幕公演で見られるとは。衣装がまったく同じでしたが、まあいいのかな。

 

ヒロイン米沢唯さんは、マズルカに導かれて登場するのにふさわしい、大プリマの輝き。指さきを数センチ動かすだけで、2000人の観客の心がついてくるという境地でした。唯さん、前に「エスメラルダ」でも似たキャラクターでしたが、パキータの純粋なかわいらしさのほうが似合っていて、中家さんとのお芝居も丁々発止で抜群でした。前半の、薔薇をつけて巻き毛をたらしたヘアスタイルがとても似合っていました~。

 

キャラクターダンスの大きな群舞がいくつもあったのですが、大人数でしかもそれぞれ違う人が出てくるという、出演者のべ何人だったんでしょう。日本バレエ協会のこういう公演は出演料が出るものではなく、出たい人が参加費を払うというシステムだそうで、出る人が多ければ公演資金も潤沢になるのだなあと、目で見て納得でした。ただ、そのせいか、レベルに達しない人も踊っていた感がいつもより強くて、ソリスト陣の活躍でキープしたものの、微妙な部分もかなりありました。

 

バレエ協会の、レア作品復刻路線はよいと思うのですが、再演がかからないですよね、これからは出てくるのでしょうか、海賊やエスメラルダなど、衣装も新調したのにそれっきりになっている感があります。どこかのバレエ団にプロダクションごと提供して、レパートリー化してもらうとかできないものなのかしら、「海賊」なんか、新国でもらってしまえばよいのに。

 

エスメラルダが持っている生まれの印、メダイヨンが直系15センチくらいのでっかいもので、腰につけていると唯さんの細いウエストの半分以上ありそうでした。なのに見た人が誰もなにも言わないとか、とられてしまっても気づかないとか、トンチキを担うキラキラアイテムでした。歌舞伎だったらヒモつけて首にかけてるお守りですよねー、どこの国の舞台も考えることは一緒ですね。