アンゲリーナ・アトラギッチの衣装と聞いて楽しみにしていた、K-BALLET TOKYOの、新しい「眠れる森の美女」、昨年秋の初演時に、新国のドンキにかまけていたらチケット完売になっていて、劇場で見ることができませんでした。

 

というわけで恵比寿ガーデンシネマで、映画版を見てきました。Kバレエのシネマは初めてみに行ったのですが、休憩なし本編2時間8分と、ロイヤルバレエのシネマの、リアルタイム休憩あり、インタビューありの長丁場とは違って、コンパクトな上映時間でした。

 

熊川哲也さんは、演出/振付/台本/音楽構成 というクレジット。バレエ作家として円熟味を感じる「眠り」でした。オリジナルな部分の振付がとてもよかったです、クラシックな動きの組み合わせで語れる振付なのが凄いなあと思いました、奇をてらったり、マイムに頼ったりとかしないんですよね。とくにカラボスの描写はイキイキしていて見ものでした。

 

あと、熊川さんの作品は群衆の交通整理が上手です。プロローグのカラボスが現れて大混乱!の場面は入り乱れる人々をさばいて鮮やかでした。なにげに妖精が首しめられたりしているのもツボ、妖精が被害にあっているのは眠り史上初なのではないでしょうか、王子さまのキャラクター改変よりびっくりしたかも。

 

オーロラ姫の登場は、森でお散歩のシーンから。日髙世菜さんはすらっとしていますが、自然に少女の雰囲気が漂っていて、技術は超絶で、ザ・プリマでした。白い猫や青い鳥の有名な踊りがここに出てくるのですが、ディヴェルティスマンピースを自由に取り出してあてはめているというか、わりと乱暴な展開かも。音楽も眠れる森の美女じゃないところからひっぱって使っていて、交響曲のポーランドの2楽章がチョロ出したりとか、やりたい放題の場面でした。

 

衝撃の設定については、スムーズに舞台が動いていたし、あと、映画だったので詳しい字幕が事前に読めてしまったのでわかりやすくて有利だったかも。山本雅也さんの王子さまは病んだ雰囲気はあまりなかったかも?ですが堅実でした。おいしい役どころなのですが、熊川さんの振付は女性に対してと比べて、男性の動きがそんなに面白くないのはどうしてかしら、ジャンプと回転が間をおかずに続いたりして技巧は大変そうなのですが。

 

ローズ・アダジオは2幕に出てきて、いつも通りの振付なのですが、これ、4人の王子のうち1人だけ、しめくくり担当というか、最後の大技をまかされる人がいるんですよね。以前たかふみさまも担当していましたが、信頼できる人に当てられるパートなのでしょう。熊川眠り、その4人めポジションにワケあり王子が入って、オーロラ姫とのやりとりが演出されていまして、本体の踊りを変えていないのに、違うストーリーになって展開しているのに感心いたしました。

 

森の妖精たちの場面もオーソドックスで、これまた意味が変わっているのですが、ここはいじってほしかったかも。リラと王子、オーロラが交差するところとか、マリインスキーのセルゲイエフ版とまったく同じでえ、なんで、と思ってしまいました。こういうところこそいじり甲斐がありそうなのに。

 

期待のアンゲリーナ・アトラギッチの衣装は本当に素敵でした。彼女の衣装を初めて見たのは、2019年のミハイロフスキー・バレエの来日公演の、ナチョ・ドゥアト版「眠れる森の美女」でした。貴婦人たちのさわさわとそよぐジョーゼットのスカートに心奪われました。ペテルブルグの初演当時、衣装があまりにも反響が大きかったからなのでしょうか、「眠れる森の美女の衣装によるファッションショー」が開かれたりしたらしいです。アトラギッチ、そのあとはナチョ版「ラ・バヤデール」「白鳥の湖」と手がけていて、バヤデールは映像が出たのですが、白鳥は日本ではなんとなく幻になりそう😢

 

長身のロシアのダンサーさんにデザインしているアトラギッチさんですが、同じ眠りでも、Kバレエのためのデザインは日本のダンサーにふさわしい仕様になっていました。時代設定はどこになっているのかな、序幕はヴィクトリア朝の雰囲気で、そのあとも基本はそのあたりですが自由さも感じました。

 

ローズアダジオのオーロラ姫のナナメにお花をあしらった衣装が素敵でした。新国の真っ白衣装よりやっぱりお花ついてたほうがいいですよね~。チュチュではあと、宝石の踊りの、ルビーとエメラルドの片身がわりのデザインもとてもよかったです。狼やカエルといったかぶりものも、ダンサーの顔が見えているのもいいなと思いました。

 

王子さまたちも、ジャケットなどの切り替えで背中がとてもきれいに映えるデザインで、ちょっと小柄な男性でもラインが出るように工夫されていました。アトラギッチさんスゴイなあと、あと、依頼して効果をあげた熊川さんもさすがです~。比べて言ってはいけないんですが、やはり新制作だった東京バレエ団の眠り、衣装がちょっと古臭かったんですよね、あとフィッティングがスムーズじゃなかったようで、女性の胸もとが合っていなかったり、男性のウエストがぶかついてたりと、感心しなかったのでした。衣装って大事です…。

 

映画のカラボスは小林美奈さん、リラの精が成田紗弥さん、このおふたりのパートは熊川版オリジナルの踊りで、振付の意図をよく読み取った、雄弁な踊りが印象的でした。あと、フロリナ姫の岩井優花さんがかわいかったな~。

 

2月のシェヘラザードで宦官を巧みに踊って、恥ずかしながらそちらで名前を覚えたビャンバ・バットボルトさんが執事で登場していて、冒頭のマイムがキレイで上手くて、さすがな舞台でした。執事さん、結婚式まで同じ衣装で、最後くらいは晴れ着で華やかにしてあげたかったです。不満点はそこくらいかな、あと、リラの精がもっていた杖がグリーンアスパラガスに見えてしまって困りました。

 

井田勝大さん指揮のシアターオーケストラトウキョウ。井田さんはバレエ音楽のスペシャリストとして大活躍なのですが、どうも、井田さんの指揮って作曲家の「らしい」音を感じられなくて、今回もチャイコフスキーぽい音がしないなあ、と思ってしまいました、すみません。編曲も増曲も気にならなかったのは、チャイコフスキー感が薄かったからかもしれません💦