1月24日の初日と、1月31日のマチネに行ってきました。

 

 

バレエファンでしたら嫌というほど聞いているチャイコフスキーなんですけど、オペラのチャイコフスキー、曲に対する手間暇が全然違うですよね…。作曲家ってそれぞれ、普通に作った曲と、これはと精魂かたむけて作った曲ってやっぱり同じじゃないです。このあいだまでくるみ割り人形を聞きまくっていた新国立劇場で、今度はエウゲニ・オネーギン、比べて書き込みの凄さにあらためてびっくりしました。3大バレエはバレエ業界の数少ない超一流音楽なんですけど、オネーギンの前にはなんといったら、でした。ひがんでしまったわ、そういう問題じゃないけれど。

 

ロシア語のオペラなので主要5役はロシア系で、全員新国立劇場初登場だそうです。オネーギンのユーリ・ユルチュクと、グレーミン公爵のアレクサンドル・ツィムバルクはウクライナ出身、タチヤーナのエカテリーナ・シウリーナと、レンスキーのヴィクトル・アンティペンコ、オリガのアンナ・ゴリャチョーワはロシアからという組み合わせ、大丈夫なのかなと思ったのですが、あと、1年前でしたら難しい状況でしたよねきっと。まだ解決していないのにすでに曖昧になっているというか。

 

指揮のヴァレンティン・ウリューピンもロシアから。キレがいいのですけど静謐で、ひとつひとつの音がとても丁寧な演奏でした。東京交響楽団の木管とホルンのチームが座席からよく見えたのですが、フルートからオーボエへ、ホルンへ、ファゴットへ、と緻密なやりとりが凄かった。ウリューピンさんは超上手なクラリネット奏者だったのだそうですが、そういうのも関係あるのでしょうか、呼吸のタイミングとかきっと知りつくしていますよね、手紙の場の、アリアと管楽器のやりとりがあざやかで、切なさ倍増でした。

 

アタマ5人がロシアネイティヴで揃えて、どこの国のオペラハウス?にはなっていましたが、初日と公演3回目で、全体がぐっとまとまって驚きました。他人行儀に見えたラーリナ郷家暁子さんフィリッピエヴナ橋爪ゆかさんと、姉妹のやりとりも変化していたし、合唱団のお芝居も別ものみたいでした。オペラは音楽が主導しますけど、舞台として出る人のコンディションというか、初日からいきなりできるというものではないんですね。新国のバレエ団も公演期間の最初と最後じゃ別モノになってたりしますが、人間のやる舞台なのですから仕方ないのかも。

 

シウリーナさんのタチアーナ、清楚な声と端正な歌い方で、手紙の長いアリアの、指揮者と呼応しながら緻密に重なっていくあのメロディー、新国この舞台をセッティングしてくれてありがとうでした。タチアーナはいきなり大きなアリアがありますけれど、そのあとは終幕までとくに歌うところがなかったりするんですね。それでも印象は強烈でした。

 

オネーギンは出てきたらまんべんなく歌っているんですが、ホントに見せ場というか聞かせ場がありません💦 ちょっと歌ってもヘンな和音でハンパに終わってしまうとか、ひどいです。ユルチュクさんは185センチありそうな、すらっとした美男子だし実力も凄いのですが、このハンパな担当曲でアピールできるオネーギンはホロストフスキーさまだけかもしれないのかも、と思ってしまいましたすみません。

 

レンスキーはアンティペンコさん、登場第一声から、アリア楽しみ!な声でやっぱりうっとりでした。ツィムバリュクさんのグレーミン公爵も、よい人が歌ったらもっていっちゃうんですよね、もっていっていました。歌が素晴らしいだけじゃなくて、タチアーナを見つめる瞳が優しいんですよー、きゃーでした。相手役を見るまなざしって大事です。

 

ウリューピン指揮東京交響楽団は、マズルカやポロネーズもキレキレの素敵演奏でした。今回の演出では合唱団による、マイムというかダンスというか、で処理されていてダンサーの出番はなかったのですが、この演奏で、新国立劇場バレエ団に踊ってほしかったでしたねえ、同じ敷地にいるのに。

 

オネーギンといえばクランコのバレエもありますが、これは初台では上演されたことがないですよね、来日公演も上野だったりしますし、東京バレエ団が版権を持っていますし。まだ持っているのかな。夏の夜の夢もあきらめていたら見られたし、希望は持っていたいです。

 

今回のプロダクションは2019年の新制作の再演で、指揮者も歌手も新しい顔ばかりのせいか、初日はとても空いていたんですよね。ですが幕を開けたら評判になって、一週間後はほぼ満員、当日券の列もできていました。これはやはり、SNSが発達したからの現象なのでしょうね。もめるのコワイしで公演をけなす人というのは、そういないものですが、ホントにいい舞台は書き込みの熱気でわかるんですよね。クラシック畑はもう、そういう循環ができてきているのだなと思うプロダクションでした。