ふいに翔と視線が合って


カズは少し戸惑っていた。





何を言ってるんだよ、と


軽く交わせる雰囲気ではない。





翔の顔は思いのほか真剣で


カズの喉がゴクリと鳴った。







「べ・・・別に・・・
嫌いとかじゃ・・・ない、
と・・・思うけど・・・」





何のことはない言葉なのに

声が上手く出てこなくって、


無理やり絞り出した感がある。




それでも嘘は言ってないはず。





翔を『苦手』だとは思っても、


『嫌い』だと思ったことは

今まで一度もないと記憶してる。







「え・・・ホントかよ?
俺、嫌われてないのか?」

「・・・お前こそ・・・
俺のこと・・・嫌いだろ」






そう、どちらかと言えば自分が


翔と初めて会ったあの時から

妙な『劣等感』を覚えて

苦手意識を持ってしまったのが


間違いなく今の不仲の原因なのだ。





翔は最初とても優しかったのに、


それさえカズに引け目となって。




どんどん素直になれなくなって、


段々、翔を避けるようになって。




それでも翔は、暫くはめげずに


カズを気遣ってくれていたのに。





こんな自分は嫌われているだろう。



カズにはそうとしか思えなかった。







「・・・俺さ、考えてた。
さっきも言ったけど、俺ら
このままじゃ多分そのうち
この世界を去ることになる。
勢いなんてのは最初だけだし
もう何もかも社長の言う通り」

「・・・うん・・・それは、
俺も・・・分かってる・・・」

「ああ。だから『エマン』は
もっと強くならなきゃいけない。
もっと信じ合わなきゃいけない。
俺とお前の二人しかいないんだ。
変えていけるのは俺らだけだ」

「・・・うん・・・」

「だからカズ。話をしよう。
腹に抱えてるもん全部出して
お互いにスッキリしたいんだ」






昨日までの自分ならもしかしたら


『めんどくさい』と一蹴して

さっさとこの場から去ったろう。




だが、そうは出来ない空気がある。





他の人間が、一人もいないからか。


翔と二人だけの空間だからなのか。




嫌でも翔と暮らさなきゃいけない。


それならば少しでも快適にしたい。



そんな意識が働いているからなのか。







「・・・分かった。いいよ」





カズはゆっくりと、大きく頷いた。