【注】こちらBL表現があります。

苦手な方はUターンをm(_ _)m











会場近くのパーキングに


車を預けて、少し歩いた。






先生は白杖を左手に持つ。



つまり左利きってことだ。





オレは先生の右側に立ち、



半歩ほど前を進んでいく。







「3歩先に段差です。

止まって。上がります」


「交差点、赤信号です。

一旦、止まります。次、

2時の方向に進みます」


「下り階段があります。

止まります。下ります。

あと2段。終わりです」






昨夜読んだエスコートの心得。





先生が不安にならないように、



曖昧な表現はNG、具体的に。





立ち位置から誘導の言葉まで



そりゃあもう頭に叩き込んだ。









「慣れてらっしゃいますね」






会場から道路を挟んだ向かいに



昭和からずっと続いてるような


レトロな店構えの喫茶店があって。




そこでお茶をすることになった。








「もしかして、身近にも

視覚障害の方が・・・?」


「え?あ、あぁ。いえ///」


「そうですか。その割に

スムーズでした。とても」


「は、はぁ・・・まぁ///

少しだけ予習を・・・///」


「・・・今日のために?」


「お役に立てれば、と///」







先生は、カップに口をつけて



何となく照れくさそうに笑う。







「スゴく歩きやすいです。

ありがとうございます///」






その顔がまた可愛いんだよなぁ。







こんな風に、正面からじっくり


先生の顔を見る、なんてことも



思えば今までは無かったと思う。





オレが先生を見つめていたって


気づかれることはないんだけど、



何よりもオレが恥ずかし過ぎて。






でも、こうして向かい合わせで


2人で珈琲なんかすすってると



時間がゆったり流れてるような。




そんな気がして落ち着いていく。







透明感のある白く滑らかな肌は



やっぱり同じ男だとは思えない。





相変わらず瞳は見えないけれど、



スっと下りて先で丸くなった鼻。





唇はまるで桜の花びらみたいに


うっすら色づいて、可憐なんだ。







それから・・・





アゴに・・・ホクロが。








『ねぇ、アナタと俺

スゴく相性いいみたい』






アイツと同じ場所に・・・







『ふふ。今度はもっと

いいこともしようね?』







あの時の、アイツの声と



あの匂い立つような色香。





ゾクゾク痺れたあの時の、



あの快感が思い起こされる。









「・・・どうしました?」


「・・・え?」


「何か考え事ですか?」


「っ、いえ、すみません」







せっかく先生と2人なのに。




オレはなぜヤツの事なんか


思い浮かべてるんだろうか。







その白い肌にアゴのホクロ。



それからやっぱりその声も。







・・・似ている。




あの『金糸雀』に。








「あ、ここから会場まで

5、6分くらい歩きます。

大丈夫ですか?  疲れたら

遠慮なく言ってください」


「ありがとうございます。

でも大丈夫。これでも結構

出歩いたりしてますから」







いや、またオレは失礼な事を。





先生と『金糸雀』は全然違う。






この人はとても繊細で儚げで。



その心まで美しい聖母のよう。







あんな怪盗と、なんて・・・






似てるワケがないじゃないか。