我が恋は 松を時雨の 染めかねて 真葛が原に
風さわぐなり
                 慈円

(わがこいは まつをしぐれの そめかねて まくずが
 はらに かぜさわぐなり)

意味・・私の恋は、松を時雨が紅葉させることが出来ない
    でいるように、思う人をなびかせることが出来ず、
    真葛が原に、葛の葉の裏を白々と見せながら風が
    騒いでいるように、私はそれを恨んで心が乱れて
    いる。

 注・・松を時雨の染めかねて=松は常緑木で時雨も染め
     て紅葉出来ない「松」に、なびかせることの出
     来ない恋人を暗示し「時雨」を自分に暗示。
    真葛=真は美称の語、葛はマメ科の植物で裏は白
     っぽい。風が吹いて葛が白っぽい裏を見せるの
     で、恨み(裏見)で心の落ち着かない状態を暗示。

作者・・慈円=じえん。1155~1225。天台座主。

出典・・新古今和歌集・1030。