春の夜の 夢の浮橋 とだえして 峰に別るる 
横雲の空
                藤原定家
            
(はるのよの ゆめのうきはし とだえして みねに
 わかるる よこぐものそら)

意味・・春の夜のはかなく短い夢がふと途切れると、峰
    から別れた横雲が離れ去って行くのが見える。
    曙の空に。まるで男と女の別れの物語のように。

    壬生忠岑の次の本歌により「峰に別るる横雲」は
    つれない人との恋を暗示しています。

    「風吹けば 峰に別るる 白雲の たえてつれなき
    君が心か」  (意味は下記参照)            

 注・・浮橋=筏や舟を浮かべてその上に板を渡して
     作った橋。たよりない感じがするので夢の
     たとえにされる。
    とだえして=途切れて。

作者・・藤原定家=ふじわらさだいえ。1162~1241。
   「新古今和歌集」の撰者。

出典・・新古今和歌集・38。

本歌です。

風吹けば 峰にわかるる 白雲の 絶えてつれなき 
君が心か   
                壬生忠岑
            
(かぜふけば みねにわかるる しらくもの たえて
 つれなき きみがこころか)

意味・・風が吹くと峰から離れて行く白雲が吹きちぎられ
    て絶えてしまう、その「絶えて」のように、あな
    たとの関係がすっかり途絶えてしまった。なんと
    つれないあなたの心なんだろう。

    切ない恋を詠んだもので、通じない我が思いを嘆き
    自分に無関心な相手の女性をくやしく思う気持を詠
     んだ歌です。

 注・・たえて=「絶える」と「たえて(すっかりの意)」
         を掛ける。
    つれなき=無情だ。

作者・・壬生忠岑=みぶのたたみね。

出典・・古今和歌集・601。