極楽も 地獄もともに 有明の 月ぞ心に
かかる月かな
               上杉謙信

(ごくらくも じごくもともに ありあけの つきぞ
 こころに かかるつきかな)

意味・・戦いに明け暮れて地獄も極楽も見てきたが、
    それを知っている明け方の月は、今、私の心
    の中に、何も無かったように澄んだ光を放っ
    ている。

    辞世の歌であり、次の辞世の言葉とともに無
    常観を詠んでいます。

    四十九年 一睡の夢 一期の栄華 一杯の酒

   (しじゅうくねん いっすいのゆめ いちごのえいが
    いっぱいのさけ)

   (わが四十九年の生涯は、一睡の夢のようにはかない
   ものであった。思えば一生の栄華も、一杯の酒と同じ
    ようなものだ。
    戦功を競った一生も、一眠りする間の夢のようだ、
    天下に名をはせた栄華も、一杯の酒ほどの楽しみ
    でしかなかった。)

 注・・有明の月=夜が明けても空に残っている月。
     「有る」を掛ける。

作者・・上杉謙信=うえすぎけんしん。1530~1578。49歳。
     戦国武将で越後の大名。「川中島の戦い」で武
     田信玄との覇権争いは有名。

出典・・富田陽一郎著「辞世の名句」。