眺むれば 月やはありし 月ならぬ 我身ぞもとの
春に変れる
後鳥羽院
(ながむれば つきやはありし つきならぬ わがみぞ
もとの はるにかわれる)
意味・・眺めると月は以前の月ではないであろうか、
いやいや昔のままの月である。ところが我
身だけが以前の春とは変わってしまってい
ることだ。
自分の境遇の変貌を詠嘆して詠んでいます。
承久の乱(1221年)によって隠岐に配流され
ています。
次の歌が本歌です。
月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ わが身
ひとつはもとの身にして (意味は下記参照)
注・・やは=反語の意味を表す。・・であろうか、
いや・・ではない。
作者・・後鳥羽院=ごとばいん。1180~1239。承久
の乱(1221)で倒幕の企てが失敗して隠岐に流
された。新古今和歌集の撰集を下命。
出典・・遠島御百首(岩波書店「中世和歌集・鎌倉篇」)
本歌です。
月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ わが身ひとつは
もとの身にして
在原業平
(つきやあらぬ はるやむかしの はるならぬ わがみ
ひとつは もとのみにして)
意味・・この月は以前と同じ月ではないのか。春は去年
の春と同じではないのか。私一人だけが昔のま
まであって、月や春やすべてのことが以前と違
うように感じられることだ。
しばらく振りに恋人の家に行ってみたところ、
すっかり変わった周囲の光景(すでに結婚してい
る様子)に接して落胆して詠んだ歌です。
作者・・在原業平=ありわらなりひら。825~880。従四
位蔵人頭。六歌仙の一人。
出典・・古今和歌集・747。