はなよしれ あきもあかずも まだしらぬ 六十年の春の
末とほき身を
冷泉為村
(はなよしれ あきもあかずも まだしらぬ むそじのはるの
すえとおきみを)
意味・・花よ知っておくれ。花に充ち足りたか、充ち足りて
いないかも未だ分らないで六十年もの春を繰り返し
て来て、これからの行く末も知らないこの私を。
自分は充ち足りたかどうかさえも分らぬまま六十年
を過ごしたとして、花の美(欲望)の前には全く無力
な人間である事を詠んでいます。
次の歌は三条西実隆(さねたか)の歌、参考です。
「今はとて思ひすてばや春の花 六十年あまりは
咲きちるも見つ」
(六十余年も花の咲き散るのを見てきて、このあたりで
執着を振り捨てよう)
この歌はかえって花(欲望)に執着の強さを表現してい
ます。
注・・あきもあかずもまだしらぬ=花に充ち足りた、充ち
足りないがどういうことなのかも未だ分らない。
作者・・冷泉為村=れいぜいためむら。1712~1774。正二位
権大納言。
出典・・樵夫問答・しょうふもんどう(小学館「近世和歌集」)。