さざ浪や 志賀の都は 荒れにしを 昔ながらの
山桜かな
平忠度
(さざなみや しがのみやこは あれにしを むかし
ながらの やまざくらかな)
詞書・・旧都(廃都)に咲く花の心を詠む。
意味・・志賀の古い都はすっかり荒廃してしまったけれど、
昔のままに美しく咲き匂っている長等山の山桜よ。
古い都を壬申(じんしん)の乱で滅んだ大津京に設
定し、その背後にある長等山の桜を配して、人間
社会のはかなさと悠久(ゆうきゅう)な自然に対す
る感慨を華やかさと寂しさを込めて表現していま
す。
注・・さざ浪=志賀の枕詞。
ながら=接続詞「ながら」と「長等山」の掛詞。
長等山=滋賀県大津市にある三井寺の背後にあ
る山。桜の名所。
壬申の乱=天智天皇の死後(672年)、皇位継承
を巡る天皇の実子の大友皇子と天皇の実弟大
海皇子の争いに端を発した古代最大の内乱。
作者・・平忠度=たいらのただのり。1144~1184。平
家全盛の時も傍流的な存在で正四位・薩摩守で
終わる。歌人として有名。
出典・・千載和歌集・66、平家物語。