1140

                      松島


見せばやな 雄島のあまの 袖だにも ぬれにぞぬれし
色はかはらず     
                  殷富門院大輔

(みせばやな おじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし
 いろはかわらず)

意味・・あなたにみせたいものです。血の涙で赤く染まった
    私の袖を。あの雄島の漁師の袖さえ、波に濡れに
    濡れているけれど、色まで変わっていないのです。

    失恋のつらさから血の涙で袖が赤く染まってしまった、
    それほど深く悲しい恋であったことを詠んでいます。

    本歌は源重之の「松島や雄島の磯にあさりせし海人の
    袖こそかくはぬれしか」です。重之の袖は濡れただけ
    だが、私の袖は濡れたうえに色まで変わってしまったと
    詠んでいます。

 注・・雄島=宮城県の松島湾内の島の一つ。
      色はかはらず=海人(漁師)の袖の色は変わらない。
     言外に、私の袖の色は、血の涙で色が変わってしまっ
     たが、の意をこめています。

作者・・殷富門院大輔=いんぶもんいんのたいふ。1131~1200。
    後白河天皇の皇女・殷富門院に仕える。

出典・・千載和歌集・886。百人一首・90。