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思ひしみて ふたりが胸に 醸みし酒 ふたりが酔ふに
誰しとがめむ
                  与謝野鉄幹

 

(おもいしみて ふたりがむねに かみしさけ ふたりが
 ように だれしとがめん)

 

意味・・恋しい思いが互いの胸に沁みわたり、長い時間を
    かけて二人の胸に醸(か)もしたこの美酒なのだ。
    二人してこの酒に酔う今、世の中の誰が咎めよう
    か。

 

    晶子との恋の成就の歌です。結婚するまで鉄幹の
    身辺には曲折があり、妻と離別しなくてはならな
    かった。「誰しとがめむ」は咎める者の眼を意識
    しています。

 

 注・・醸みし=こうじに水を加え、発酵作用により、酒
     などを作る。気分を作り出す。

 

作者・・与謝野鉄幹=よさのてっかん。1873~1935。本
    名寛。落合直文に師事。与謝野晶子は妻。

 

出典・・東京堂出版「現代短歌鑑賞事典」。