5849

 


 

よそながら かげだに見むと 幾度か 君が門をば
過ぎてけるかな
                 樋口一葉

 

(よそながら かげだにみんと いくたびか きみが
 かどをば すぎてけるかな)

 

意味・・私の好きな人の姿をほんの少しだけでも見たいと
    思って、気づかれないように、あなたの家の門の
    前を何度も通り過ぎたのです。

 

    明治時代に生まれた一葉は色々と制約があり自由
    に生きる事が出来なかった。戸主制度もその一つ
    で戸主になれば家族を養わなければならず、好き
    な人が出来ても嫁いで行けなかった。
    一葉も戸主であり好きな相手も戸主であったので、
    結婚したくても出来ない。せめて相手の姿を遠く
    から見て心を慰めたい、という気持ちを詠んでい
    ます。

 

 注・・よそながら=それとなく、間接的に。
    戸主=旧民法で、一家の長で戸主権を持ち家族を
     養う義務があるもの。

 

作者・・樋口一葉=ひぐちいちよう。1872~1896。24歳。
    結核を患い亡くなる。

 

出典・・樋口一葉和歌集(林和清著「日本の悲しい歌」)