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風をだに 恋ふるは羨し 風をだに 来むとし待たば
何か嘆かむ
                 鏡王女
            
(かぜをだに こうるはともし かぜをだに こんとし
 またば なにかなげかん)

意味・・風の音さえ恋心がゆさぶられるとは羨ましい
    ことです。風にさえ胸ときめかして、もしや
    おいでかと待つというのなら、何を嘆く事が
    ありましょう。
  
    自分には訪れてくれる人のあてもない嘆きを
    詠んでいます。

    万葉集の488に額田王の次の歌が並べられてい
    ます。

   「君待つと 我が恋ひ居れば 我が屋戸の 簾動かし
    秋の風吹く」

作者・・鏡王女=かがみのおおきみ。生没年未詳。額田王
    の姉か。舒明天皇(640年頃の人)の娘または孫。

出典・・万葉集・489。

参考歌です。

君待つと 我が恋ひ居れば 我が屋戸の 簾動かし
秋の風吹く
                   額田王
                    
(きみまつと わがこいおれば わがやどの すだれ
 うごかし あきのかぜふく)

意味・・あの方のおいでを待って恋しく思っていると、
    家の戸口の簾をさやさやと動かして秋の風が
    吹いている。

    夫の来訪を今か今かと待ちわびる身は、かす
    かな簾の音にも心をときめかす。秋の夜長、
    待つ夫は来ず、簾の音は空しい秋風の気配を
    伝えるのみで、期待から失望に思いは沈んで
    行く。

 注・・屋戸=家、家の戸口。

作者・・額田王=ぬかたのおおきみ。生没年未詳。万葉
    の代表的歌人。

出典・・万葉集・488。