1700


 

おろそかに 見つつ過ぐれど マンモスの 化石の牙は
湾りたくまし
                    明石海人

 

(おろそかに みつつすぐれど マンモスの かせきの
 きばは まがりたくまし)

 

意味・・ふらっとして入った博物館の中をさまよい歩いて
    いると、マンモスの牙の化石が目に入った。余り
    のたくましさに時を忘れた。束の間、太古へと思
    いを馳せていた。

 

    病院でハンセン病と診断されてガックリした状態
    になり、すぐに家に帰る気になれず、気が抜けた
    ようにさまよい歩いている時、ふらつとして近く
    の博物館に入った時の様子です。


    マンモスの牙の凄さを見て、不治の病と診断され
    た時の気持ち、その気持ちの整理が出来そうにな

    った時に詠んだ歌です。

 

    不治の病になろうと思ったのではないけれど、病
    気になってしまったら仕方がない。どんな逆境に
    落ち込んでも絶望すまい。失望し落胆して自暴自
    棄にはなるまい。ナポレオンは自分の辞書の中に
    は不可能という語はない、と言っている。今から
    どうすべきかを考えよう。ここから一歩運を開い
    て行こう、と。

 

 注・・おろそかに=うわの空で、なおざりに。

 

作者・・明石海人=1901~1939。ハンセン病を患い岡山県
    の愛生園で療養。手指の欠損、失明、喉に吸気管
    を付けた状態で歌集「白描」を出版。

 

出典・・歌集「白描」。