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夜をこめて 鳥のそらねは はかるとも よに逢坂の
関はゆるさじ
                    清少納言
             
(よをこめて とりのそらねは はかるとも よに
 おうさかの せきはゆるさじ)

意味・・夜の明けないうちに、鳥の鳴きまねで人をだまそう
    としても、あの函谷関ならばともかく、この逢坂の
    関は決して許さないでしょう。・・・だまそうとし
    ても、私は決して逢う事を許さないでしょう。

    長い詞書がついています。
    夜更けまで話こんでいた大納言藤原行成が、宮中の
    物忌みがあるからと理由をつけて帰って行った。翌
    朝、「鳥の声にもよほされて」と言ってよこしたの
    で、作者は函谷関の故事をふまえて、夜更けの鳥の
    声は、あの函谷関のそら鳴きのことですねと返事を
    した。すると行成が「関は関でも、あなたに逢う逢
    坂の関」とたわむれて言って来たので、この歌を詠
    みました。    

 注・・こめて=つつみ隠す(夜が深いのを)。
    そらね=空音。鳴きまね、うそ鳴き。
    はかる=だます、欺(あざむ)く。
    よに=けっして(下に打ち消しの語がつく)。
    藤原行成=ふじわらのゆきなり。972~1027。正二位
     大納言。
    物忌み=飲み食い、行いを慎み、心身を清めること。
    函谷関の故事=中国の「史記・猛嘗君・もうしよう
     くん」に見える故事。猛嘗君が秦(しん)に使いをし
     て捕らえられたが、逃げて夜中函谷関に来た。この
     関の掟は一番鶏(どり)が鳴かないと関を開けないの
     で、物まねのうまい部下に鳴きまねをさせた所、門
     が開いて逃げる事が出来たという。

作者・・清少納言=せいしようなごん。966?~1027?。「枕
     草子」の作者。

出典・・後拾遺集・940、百人一首・62。