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うつせみの 世やも二行く 何すとか 妹にも逢はずて

我がひとり寝む
                  大伴家持

 

(うつせみの よやもふたゆく なにすとか いもにも
 あわずて あがひとりねん)

 

意味・・この現実の世がもう一度繰り返される事があろ
    うか。それなのに、このかけがえのない夜を、
    あなたに逢わないで、寂しく、ひとり寝が出来
    ようか。出来ない、あなたに是非逢いたい。

 

    大伴家持が恋人の大伴坂上大嬢(おおとものさか
    のうえのいらつめ)にあてた恋の歌です。

 

    人は死に、二度とは生き返らない。人生は一度き
    り、二度と再生はきかない。このかけがえのない
    人生。あなたと楽しい人生を送りたい。

 

    兼好法師の言葉、参考です。

    「存命の喜び、日々楽しまざるべけんや 」

 

    (いのち長らえている事の喜びを、日々かみしめて
    楽しく生きていこう。そうしないでいいものか。) 

     

 注・・うつせみの=世にかかる枕詞。現世。現実の。
    やも=反語。
    二行(ふたゆ)く=繰り返される事。
    うつせみの世やも二行く=この現実の世の中がも
     う一度繰り返される事があろうか。人生は二度
     あるわけではない。
    何すとか=どうして。反語の意を表す。

 

作者・・大伴家持=おおとものやかもち。718~785。大

            伴旅人の長男。少納言。万葉集の編纂をする。

 

出典・・万葉集・733。