この日ごろ 桜ゆたかに 咲きおりて 風ふくときに
幹あざやけし
                   鈴木幸輔 

(このひごろ さくらゆたかに さきおりて かぜふく
 ときに みきあざやけし)

意味・・この数日、桜は豊かに咲きみちて、時折風が
    吹き立つと、枝はゆれ花は明るく騒ぎたつ。
    この時、その桜の太々とした幹が、眼にあざ
    やかに見えることだ。

    詞書は、終戦の年過ぎて昭和二十一年の春、
    妻と二人の子供が疎開先の私の生家である
    秋田の田舎より帰る、となっています。
    
    満開の桜を仰ぐ時、人はその花の美しさに
    のみ心を捉えられるが、折からの風に枝が
    ゆれる時、その枝と咲き満ちる花を大地か
    らしっかり支えている幹の存在に気づく事
    はまれである。
    作者は、桜の幹、充実した生命のあり処に
    心を向けている。終戦と、家族を迎え得た
    夫として父としての安らぎがあったであろ
    う。新しい出発を期する者の気概のこもる
    歌です。

作者・・鈴木幸輔=すずきこうすけ。1911~1980。
     秋田県立中学卒。小学校代用教員。北原
     白秋に師事。


出典・・歌集「長風」