あまた年 もとの雫を なげききぬ 誰も葉末の
露の身にして
橘千蔭
(あまたどし もとのしずくを なげききぬ たれも
はすえの つゆのみにして)
意味・・長年、草木の根元の雫のはかなさを人々は嘆いて
きた。誰もが葉の先の露のようにもっとはかなく
消えやすい身なのに。
知人の17回忌で詠んだ歌です。
参考歌です。
「末の露もとの雫や世の中の遅れ先立つためしなるらん」
作者・・橘千蔭=たちばなのちかげ。1735~1808。江戸町奉行
与力。賀茂真淵門。
出典・・家集「うけらが花」。
参考歌です。
末の露 本の雫や 世の中の 後れ先立つ
ためしなるらん
僧正遍照
(すえのつゆ もとのしずくや よのなかの おくれ
さきだつ ためしなるらん)
意味・・葉先から落ちる露、草木の根元からしたたる
滴(しずく)は、無常な世の中が、遅速の違い
があってもいつかはすべて亡びるというよい
実例であろうか。
無常の真理を自然を鏡として確かめた歌です。
注・・末の露本の雫=草木の先のほうの露と根元の
ほうの雫。
後れ先立つ=人が後れて死に、先立って死ぬ。
ためし=実例。
無常=全ての物が生滅変転してとどまらない
こと、人の死。
作者・・僧正遍照=そうじょうへんじょう。890年没、
75歳。僧正は僧の一番上の位。素性法師の父。
36歌仙の一人。
出典・・新古今和歌集・757。