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見ても又 逢ふ夜まれなる 夢のうちに やがてまぎるる
我が身ともがな
                   光源氏

 

(みてもまた あうよまれなる ゆめのうちに やがて
 まぎるる わがみともがな)

 

意味・・こうしてお目にかかっても、二度と逢う夜は
    めったにないでしょうから、夢としか思えぬ
    逢瀬の中で、このまま紛れ消える我が身であ
    りたい。

 

    源氏物語の歌です。光源氏の父・桐壺院の后
    の藤壺中宮と、光源氏が極秘の場所であるま   
    じき逢瀬をうたった歌です。藤壺は光源氏と
    の間に冷泉帝をもうけ、長大な源氏物語の進
    展・展開となる歌です。

    光源氏が、容易にはかなわない逢瀬を持った
    期待と不安、その時を遂に得た喜び、持続し
    ない幸せを認めるほかないむなしさ、再びの
    逢瀬の望み難いさびしさと新たな期待、それ
    らの気持ちを詠んでいます。

 

 注・・やがて=そのまま、その状態で。
     がな=他への希望を表す。・・がほしいなあ。
    
作者・・紫式部=むらさきしきぶ。970頃~1016頃。藤
    原宣孝(のぶたか)の妻。光源氏は「源氏物語」

    の主人公。 

 

出典・・源氏物語・若紫の巻(樋口芳麻呂著・王朝物語
     秀歌選)。