0308 (2)

 


 壁に書き 襖に書きし 幼児の 汽車の落書き

せんすべのなき
               内田守人

 

(かべにかき ふすまにかきし おさなごの きしゃの
 らくがき せんすべのなき)

 

意味・・幼児が壁や襖に落書きを書いて無邪気に遊んで
    いる。その中に汽車の落書きもある。汽車に乗
    れる事に憧れているのだろうが、病気が治って
    この療養所から帰る事がもう出来ないのに。

 

    昭和10年頃に癩病を患った幼児の治療にあた
    っていた医師が詠んだ歌です。当時は癩病は不
    治の病であり、療養所に入ると一生出る事が出
    来ませんでした。

 

 注・・せんすべのなき=する方法がない。

 

作者・・内田守人=うちだもりと。1900~1982。長島

    愛生学園の癩病の医師。癩患者の明石海人を歌

    人に育てる。

 

出典・・新万葉集・巻一。