夕ぐれを 花にかくるる 小狐の にこ毛にひびく
北嵯峨の鐘
与謝野晶子
(ゆうぐれを はなにかくるる こぎつねの にこげに
ひびく きたさがのかね)
意味・・まだ明るく静けさの漂う夕暮れ、京、北嵯峨
の野、飛び廻り飛びまわりして遊びほけてい
たかわいい小狐、折りから近くの寺で撞き鳴
らす「ゴーン」という重々しい力のこもった
入相の鐘。それを聞いたとたんびっくりして
草花のかげに身を隠してしまった。その晩鐘
の音響の余韻は、小狐の背のふっくらと柔ら
かな毛をも微かに震わせています。
注・・にこ毛=和毛。繊細な毛。
北嵯峨=古都・京都の大覚寺のあたり。
作者・・与謝野晶子=よさのあきこ。1878~1942。堺
女学校卒。
出典・・歌集「みだれ髪」。