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たまさかに飲む酒の音さびしかり
                   山頭火

 

(たまさかに のむさけのおと さびしかり)

 

意味・・禁酒をしていて、たまさかに飲んだ酒だが、
    酒を飲んでは失敗するので、気持ちは癒さ
    れず寂しいものである。

 

    句会があって禁酒の誓いを破って多いに酒
    を飲みます。その帰り道に旅館に上がり込
    みさらに飲んだ。飲み過ぎて支払いが出来
    なくなり、句友に金を工面してもらいます。
    そういう失敗をした時の句です。

 

    禁酒はお金が無いからしていたのです。
    山頭火は次のように言っています。「貧乏
    によって、肉体的にさえも二つの幸福を与
    えられた。一つは禁酒であり、他の一つは
    飯が空腹のため美味しく食べられることで
    ある」と。

 

作者・・山頭火=さんとうか。種田山頭火。1882~
    1940。荻原井泉水に師事。「層雲」に出句。
    母と弟の自殺、家業の酒造業の失敗など不
    幸が重なる。禅僧として行乞流転の旅を送
    る。

 

出典・・句誌「層雲」(金子兜太著「放浪行乞・山頭
    火百二十句」)