0355



思ひつつ 経にける年の かひやなき ただあらましの

夕暮れの空
                  後鳥羽院

 

(おもいつつ へにけるとしの かいやなき ただ
 あらましの ゆうぐれのそら)

 

意味・・あの人を思い続けて過ごして来た月日の効き
    目もなく、またあの人を忘れようと忘れ貝を
    拾った効き目も著れてこない。今日もまた逢
    える見込みはなく、この恋の将来はどうなる
    事かと空しく思い煩(わずら)ううち、気づい

    てみれば、早くも夕暮れになってしまった。

 

 注・・思ひ=恋い慕う気持ち。

    かひ=「甲斐」と「貝」を掛ける。貝は忘れ
     貝を意味して、これを拾うと恋しい人を忘
     れる事が出来ると思われていた。
    ただ=「直・早くも」と「徒・むなしい」を
     掛ける。
    あらまし=将来についてあれこれと思いを巡
     らす事。

 

作者・・後鳥羽院=ごとばいん。1180~1239。高倉天
    皇の第四皇子。1221年承久の乱の企てが失敗
          して隠岐に流される。「新古今和歌集」の撰集

    を下命。
  
出典・・松本章男著「歌帝後鳥羽院」。