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なべて世の はかなきことを 悲しとは かかる夢みぬ
人やいひけむ
                     建礼門院右京大夫

 

(なべてよの はかなきことを かなしとは かかる
 ゆめみぬ ひとやいいけん)

 

意味・・世間の人はよく、この世ははかなくて悲しい
    ものだと簡単に言ってしまうが、それは今度
    の私のように恋しい人を死なせてしまうとい
    う恐ろしい目にあったこともなく、またそん
    な悪夢を見たこともないからこそ、そんな気
    楽なことが言えるのではないだろうか。

 

    恋人の平資盛(すけもり)が源平の戦いで壇の  
    浦で負けて入水したのを伝え聞いて詠んだ歌
    です。つい最近まで元気な姿で会っていたの
    に、この世は本当にはかないものだと悲しさ
    を実感した歌です。

 

 注・・なべて=並べて。おしなべて、一般に。
    はかなき=無常である、あっけない。

 

作者・・建礼門院右京大夫=けんれいもんいんうきよ
    うのだいぶ。1157頃~1227頃。高倉天皇の
    中宮平徳子(建礼門院)に仕えた。この間に平
    資盛との恋が始まる。1185年に壇の浦で資盛
    ら平家一門は滅亡した。

 

出典・・後藤安彦著「短歌で見る日本史群像」。