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死近き 母の心に 遠つ世の 釈迦の御足跡の
石をしぞ擦れ
              吉野秀雄

 

(しにちかき ははのこころに とおつよの しゃかの
 みあとの いしをしぞさすれ)

 

意味・・もう死期の近い母を悲しく思いながら、遠い
    世のお釈迦様の足跡を刻んだといわれる仏足
    石を、静かにさすり母の平穏を祈っている。

 

    「釈迦の御足跡の石」は奈良の薬師寺にある
    仏足石である。釈迦の足跡を石に刻み信仰の
    対象にしたもので753年に建立されている。
    そこには仏足石歌碑があり、仏徳を詠んだ歌
    21首が刻まれている。
    その内の一首です。
    「大御足跡(おおみあと)を見に来る人の去(い)
    にし方千代の罪さへ滅ぶぞと言う除くと聞く」
    (この仏足石を見に来た人の所には、千代の昔
    からの罪さえ除かれると聞いている。なんと有
    難いことでしょう) 

 

    母が安らかに眠ることを願った歌です。

 

作者・・吉野秀雄=よしのひでお。1902~1967。慶応
    義塾大病気中退。会津八一に師事。

 

出典・・岩田正著「短歌のたのしさ」。