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たち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば
今帰り来む
                  在原行平

 

(たちわかれ いなばのやまの みねにおうる まつとし
 きかば いまかえりこん)

 

意味・・見送ってくださる皆さんと別れ、任国の因幡に
    行きますが、因幡の山の上に生えている松、その
    松という名のように、皆さんが私の帰りを待って
    いてくださると聞きましたら、すぐにも都に帰っ
    てきましょう。

 

    作者が因幡国(鳥取県)の地方官として赴任する時
    に、都の人々と別れを惜しんだ歌です。
    人々の別れを意味する「たち別れいなば」の言葉
    を赴任先の因幡国の「稲葉山」を掛けながら、そ
    の山に「生ふる松」と続け「待つ」を掛けて都の
    人々と断ちがたい思いが強調されています。

 

 注・・たち別れ=「たち」は接頭語。赴任のため都の人
     と別れるのである。
    いなばの山=因幡国(今の鳥取)にある稲葉山。
    まつ=「松」と「待つ」を掛ける。
    まつとし=「し」は強調の語。

 

作者・・在原行平=ありわらのゆきひら。818~893。因

    幡国(鳥取県)守。須磨に配流された。

 

出典・・古今和歌集・365、百人一首・16。