下京や 紅屋が門を くぐりたる 男かはゆし
春の夜の月
与謝野晶子
(しもぎょうや べにやがかどを くぐりたる おとこ
かわゆし はるのよのつき)
意味・・おぼろに霞む春の月夜、京の下京、卸問屋の居
並ぶその町筋の家々は、すでに大戸を下して、
人通りも少なく静まりかえっている。とその時、
(「女」が使用する高価な口紅や頬紅を商う)「
紅屋」のくぐり戸を開けて、こっそり入って行
った「男」がいる。朧な月影のもと定かではな
いが、いかにも遊び人らしい若旦那風の「男」、
夢中になっている「女」へのプレゼントのため
に「紅」を買い求めようとするのか、宵闇に紛
れて、恥をしのんでやって来た男、そのけなげ
な心根、それがいかにもいじらしく、「可愛い
なあ」と思います。
注・・下京=住宅の多い上京に対して商家が密集して
いた。
作者・・与謝野晶子=よさのあきこ。1878~1942。堺女
学校卒。与謝野鉄幹と結婚。「明星」の花形と
なる。
出典・・歌集「みだれ髪」。