花さへに 世をうき草に なりにけり 散るを惜しめば
さそう山水
西行
(はなさえに よをうきぐさに なりにけり ちるを
おしめば さそうやまみず)
意味・・私ばかりでなく、花までもが世の中を憂いもの
として水面に散って浮き草のようになってしま
った。散るのを惜しんでいると、一方では一緒
に行こうと誘って流れて行く山川の水がある、
花はそれに誘われて流れて行ってしまうことだ。
歌合の評者の定家は「散るを惜しめば」を「春
を惜しめば」と訂正し改めたらどうか、と述べ
ている。現実的な光景を一般的な惜春の情にし
はどうかと言ったもの。いずれにしても、散る
のを惜しめば、春を惜しめば、山川の水が誘う
ので、花は早く散り春は早く過ぎ去って行くと
歌ったものです。人生の春を謳歌するのも、す
ぐに過ぎ去る意を含んでいる。
注・・世をうき草=「うき」は「憂き」と「浮き」を
掛ける。「憂き」は人生の春を惜しむ心。
作者・・西行=1118~1190。
出典・・宮河歌合(小学館「中世和歌集」)