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み吉野は 見しにもあらず あれにけり あだなる花は

なほのこれども
                          新待賢門院

 

(みよしのは みしにもあらず あれにけり あだなる
 はなは なおのこれども)

 

意味・・み吉野は、前に見馴れた様子とはうって変って
    荒れ果ててしまいました。あの、移ろいやすい 
    花はまだ残っているのに。

 

    移り気の桜さえ昔と変わらずに咲いているのに、
    周辺は廃墟となってすっかり変った。という詠
    嘆。かって天皇の妃として権威を振るった女院
    の感慨です。

    1346年の四条畷(なわて)の戦いで、楠木正行を
    破った北朝軍は、吉野の行宮を攻め、蔵王堂等
    の坊舎を焼き払ったので廃墟となった。

 

 注・・見し=見届ける、観察する、見馴れる。
    あだ=一時的なさま、はかないさま。

 

作者・・新待賢門院=しんたいけんもんいん。1359年没。
    後醍醐天皇の妃。南北朝期の歌人。

 

出典・・新葉和歌集。