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帚木の 心を知らで 園原の 道にあやなく
まどひぬるかな
                   光源氏

 

(ははきぎの こころをしらで そのはらの みちに
 あやなく まどいぬるかな)

 

意味・・信州の園原に生えている帚木は、遠くから見える
    けれど、近づいていくと見えなくなる木といいま
    す。あなたは帚木のような方。あなたの心をはか
    りかねて、迷いに迷って、道にたたずんでいる私
    です。

 

    光源氏の恋を、夫がいるばかりに受け入れられな
    い空蝉を口説いている歌です。この歌に対して「

    いやしい私ゆえ、あなたがお近づきになれば消え

    てしまうのです。どうか私のことはお忘れくださ
    い」ときっばりとした拒否の歌を歌いますが、光
    源氏を思う情念は強く、夫がいるばかりに好きだ
    と言えない空蝉は悩みます。

 

 注・・帚木=遠くから見れば箒を立てたように見えるが
     近寄ると見えなくなるという木で信州の園原に
     あるという。
    園原=長野県伊那郡にある台地。
    あやなく=筋がとおらない、訳が分からない、い
     われがない。

 

作者・・光源氏=ひかるのげんじ。源氏物語の主人公。

 

出典・・源氏物語・空蝉。