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松の花 花数にしも 我が背子が 思へらくに 
もとな咲きつつ
                      平群女郎

 

(まつのはな はなかずにしも わがせこが おもえ
 らくに もとなさきつつ)

 

意味・・私って松の花みたい、あのかたが花の数にも
    思っていてもくださらないのに、こうやって、
    いたずらに咲いているんですもの。

 

    松の花は黄金色に霞む花吹雪にはなるけれど、
    一つ一つの花は、かすかな粉のような花である。
    梅・桃・桜・藤・・・など、世の中には色も形
    も美しい花は沢山ある。それに比べれば松の花
    を人は花の数に入れない。これと同様にあの方
    は私を恋人の一人に扱ってくれない。それでも
    あなたが振り向くのを待っています。
    松に待つを掛けています。

 

 注・・背子=女の側から男をいとしんで呼ぶ言葉。
    もとな=わけもなく、むやみに、いたずらに。

 

作者・・平群女郎=へぐりのいらつめ。生没年未詳。大
            伴家持に恋を寄せていた人。

 

出典・・万葉集・3942。