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         人買いによって船で運ばれる安寿姫と厨子王丸
 
人買い舟は 沖を漕ぐ とても売らるる身を

ただ静かに漕げよ 船頭殿

 

(ひとがいふねは おきをこぐ とてもうらるるみを
 ただしずかにこげよ せんどうどの)

 

意味・・人を売り買いするものの舟が沖へ漕いでゆく。
    乗せられているのは、どうせ売られてゆく身。
    だからこそ、今だけは、ただただ静かに漕い
    でおくれ。なあ船頭よ。

 

    源平争乱の後も世の中に長く平和な日々が訪
    れることはなかった。とくに京の都を舞台に
    十数年の戦が続き、町を焼き野原にした応仁
    の乱は国土を荒廃させ、貧しい者たちは息子
    や娘を売らなければ生きて行けなかった。
    「山椒大夫」の安寿と厨子王のような悲劇が
    ここかしこでくりかえされていた。

    船頭にしても、毎日どれほどの売られる者を
    乗せたかしれない。もう日常のこと。同情心
    も無くなっている。早く仕事をすまそうと手
    荒く漕いでいる。

    ただ静かに漕げよ、というはかない願い。せ
    めて同情してほしいという願いです。

 

 注・・とても=どうせ・・なら。

 

出典・・閑吟集。