さらばとて むずかる吾子を あやしつつ つくる笑顔に
妻を泣かしむ
明石海人
(さらばとて むずかるあこを あやしつつ つくる
えがおに つまをなかしむ)
意味・・むずかる我が子を、さようならと言いつつあや
しながら、作る笑顔で妻を泣かせてしまった。
歌の状況です。
海人は癩療養所に行く為に列車に乗り込むと、
長女の水穂は母親に教えられた通り「お父ちゃ
んさようなら」をくり返し、しきりに帽子を振
る。彼女の無邪気な心は、今日の別れの何であ
るかを知るはずもない。海人は列車の窓から乗
り出し、妻の背中の和子をあやそうと笑顔を作
った。しかし、その笑顔も固くなるのをどうす
る事も出来なかった。
作者・・明石海人=1901~1939。ハンセン病を患い岡山
県の愛生園で療養。手指の欠損、失明、喉に吸気
管を付けた状態で歌集「白描」を出版。
出典・・松田範祐著「小説・瀬戸の潮鳴り」。